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#555 「長崎市事件」長崎地裁(再掲)

2022年2月2日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第555号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【長崎市(以下、N市)事件・長崎地裁判決】(2021年3月9日)

▽ <主な争点>
退職の意思表示が統合失調症により意思能力を欠くかなど

1.事件の概要は?

本件は、Xが(1)N市選挙管理委員会がXに対して2016年3月31日付でした依願免職処分(本件処分)は、前提となるXの退職願による意思表示が意思能力を欠く無効なものである等のため違法であると主張して、本件処分の取消しを求めるとともに、(2)N市がメンタルヘルス対策の体制をつくるべき等の安全配慮義務を有しているにもかかわらず、これに違反し、または違法な本件処分を行ったことにより、Xに慰謝料100万円および弁護士費用10万円の合計110万円の損害を生じさせたと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、同市に対し、上記相当額およびこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<N市およびX等について>

★ N市は、地方公共団体である。

★ Xは、1987年4月にN市に採用され、以後、総務部等における勤務を経て、2013年4月から同市選挙管理委員会(以下「選管」という)の事務局で勤務する者である。

★ 2013年4月当時、選管事務局事務長はAであった。また、Xが所属する総務啓発係での直属の上司はB係長であった。

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<本件処分、本件訴訟に至った経緯等について>

★ Xは1992年10月に甲クリニックを受診し、「幻覚・妄想状態」と診断され、同月から1993年1月までの間、病気休暇を取得した。その際、XはN市に診断名を「神経衰弱状態」とする診断書を提出した。

★ Xは2005年3月から5月までの間、病気休暇を取得した。その際、N市に診断名を「統合失調症」とする乙病院作成の診断書を提出した。その後、同年6月に復職して以降2016年3月31日まで休職していなかった。

▼ Xは2015年12月18日、B係長からの業務指示に対し、逆上して「自分はもう選管の職員ではないはずだ」などと述べ、業務中であるにもかかわらず、職場から出て行き、その後職場に戻らず、自宅にも帰宅しなかった(以下「職場離脱行動」という)。

▼ Xは2016年3月24日、選管宛の退職願(以下「本件退職願」という)を提出したところ、選管は同月31日付でXに対して依願免職処分(以下「本件処分」という)をした。

▼ Xは本件退職願の提出は統合失調症が悪化したことにより、意思能力を欠く状態で行われたものであるとして、本件処分を不服として同年10月、N市公平委員会に対し、審査請求をしたが、同委員会は2017年10月、これを却下する決定をした。そのため、Xは2018年3月、本件訴訟を提起した。

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