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#367 「M社事件」大阪地裁

2014年8月20日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第367号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【M社事件・大阪地裁判決】(2012年11月2日)

▽ <主な争点>
会社のパソコンのデータを持ち出した従業員の解雇など

1.事件の概要は?

本件は、M社に雇用されていたAおよびBが同社からされた懲戒解雇が無効であるとして、雇用契約上の地位の確認ならびに解雇後の賃金およびこれに対する遅延損害金の支払いを求めたもの。

Bは組合に加入し、分会長として組合活動を行う一方、Aは総務関係の業務に従事していたところ、Aは従業員データ、取引先資料の無断持ち出し等の理由で、BについてはAとの共謀、幇助等の関与をしたこと等の理由でそれぞれM社から懲戒解雇された。なお、Aは窃盗罪、Bは盗品等無償譲り受け罪で有罪判決を受けた。

2.前提事実および事件の経過は?

<M社、AおよびBについて>

★ M社は、業務請負(設備機器類・産業廃棄物の構内管理業務)、廃棄物の処理、収集運搬等を業とする会社である。平成23年9月現在の従業員数(パートタイム従業員、嘱託職員等を含む、Aらおよび他社からの出向者を含まない)は34名である。

★ Aは、20年2月、M社に雇用され、総務関係の業務に従事していた者である。なお、Aは22年1月に全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(以下「本件組合」という)に加入し、以後、M社分会員として組合活動を行っていた。

★ Bは、19年5月、M社に雇用され、懲戒解雇当時、配車補助業務に従事していた者である。なお、Bは21年11月に本件組合に加入し、M社分会の分会長に就任し、組合活動を行っていた。

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<Aによる社内データの持ち出し等について>

▼ Aは21年10月、Bからメールで本件組合の広報活動に使用する目的でM社の主要取引先リストを同社のパソコン上のネットワークから取り出してほしい旨の依頼を受け、本社事務所において、M社の専務取締役であったCが管理する、同社の得意先に関するデータをプリントアウトした用紙39枚を持ち出し、Bに手渡した。

★ 上記得意先リストには、得意先名、住所、営業担当者の他、「営業担当者との癒着度」、「業績重要度」、「得意先の事業規模」、「備考(Cとの関係など)」の記載があった。

▼ Aは22年9月、本社事務所において、Cが管理する、同社従業員の昇給等に関するデータが印字された用紙5枚を持ち出し、本件組合の組合員に見せた。

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<Aらに対する懲戒解雇等について>

▼ M社はAに対し、23年3月11日付で懲戒解雇すると告知した。Aに対して送付した同日付解雇理由証明書には解雇理由として、以下の(ア)ないし(エ)のような記載がある。

(ア)21年10月から22年9月の間、当社本社事務所内において次の行為をしたこと。
(1)企業秘密、個人情報である従業員のデータを無断でプリントアウトして持ち出した。
(2)取引先作成の管理伝票等の取引先に関連する資料を無断でプリントアウトして持ち出した。
(3)業務上の権限を逸脱して企業秘密にアクセスしようとしたり、データの検索を行った。
(4)就業時間中に頻繁に私的な電子メールの送受信を行った。
(5)会社役員、管理職の業務活動の状況等を就業時間中に本件組合に電子メールで連絡した。
(6)本件組合の違法活動に対し、上記(2)(4)(5)の方法により情報を提供して加担した。

(イ)刑法に規定する犯罪(窃盗罪)に該当する行為を行った。また、上記により逮捕され、その事実が新聞報道され、会社の名誉・信用を傷つけた。
(ウ)23年2月3日以降同年3月11日に至るまでの間、自己の責めに帰すべき事由により欠勤した。
(エ)会社が22年10月5日付業務命令書により無断でプリントアウトした書類の全ての返還を命じ、会社に返還することができない事情がある場合は直ちに会社に報告するよう命じたにもかかわらず、ごく一部のみを全てであるかのように仮装して返還したのみで、これを怠った。

▼ M社はBに対し、23年5月6日付で懲戒解雇にすると告知した。Bに対して送付された同日付解雇理由証明書には解雇理由として、以下の(ア)ないし(オ)のような記載があった。

(ア)21年10月から22年9月の間、Aが当社本社事務所内において行った次の行為について共謀、幇助等の関与をしたこと。
(1)企業秘密、個人情報である従業員の取引先に関連する資料を無断でプリントアウトして持ち出した。
(2)取引先作成の管理伝票等の取引先に関連する資料を無断でプリントアウトして持ち出した。
(3)業務上の権限を逸脱して企業秘密にアクセスしようとしたり、データの検索を行った。
(4)会社役員、管理職の業務活動の状況等を就業時間中に本件組合に電子メールで連絡した。
(5)刑法に規定する犯罪(窃盗罪)に該当する行為を行った。
(6)本件組合の違法活動に対し、上記(2)(4)(5)の方法により情報を提供して加担した。

(イ)刑法に規定する犯罪(盗品等無償譲り受け)に該当する行為を行った。また、上記により逮捕され、その事実が新聞報道され、会社の名誉・信用を傷つけた。
(ウ)23年4月12日以降同年5月6日に至るまでの間、自己の責めに帰すべき事由により欠勤した。
(エ)21年10月から22年9月の間、就業時間中に頻繁に私的な電子メールの送受信を行った。
(オ)21年10月22日、貴殿の机上に配置されていたパソコンから貴殿が管理していた配車・受注に関するメール等のデータを無断で削除した。

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<Aらに対する刑事事件判決について>

▼ 23年2月、Aは窃盗罪で逮捕され、同月23日付で起訴された。

▼ 同年4月、Aは窃盗容疑で再逮捕され、また、Bは盗品等無償譲り受け容疑で逮捕され、いずれも同月27日付で起訴された。

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