見出し画像

#584 「フォビジャパン事件」東京地裁

2023年3月22日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第584号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【フォビジャパン(以下、H社)事件・東京地裁判決】(2021年6月29日)

▽ <主な争点>
関連会社での採用内定成立、期待権の侵害による損害賠償など

1.事件の概要は?

本件は、Xが(1)主位的に、H社との間で解約留保権付労働契約(採用内定)が成立しており、同社による採用内定の取り消しが無効であると主張して、同社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、当該労働契約に基づく2019年3月分から判決確定日までの賃金月額39万円およびこれに対する遅延損害金の支払を求め、(2)予備的に、Xの労働契約締結に対する期待は法的保護に値する程度に高まっていたものであり、その後、H社が従前提示した賃金では採用しない旨を一方的に通告したことによりX・H社間の労働契約が成立せず、Xが収入を失うなどの損害を被ったと主張して、不法行為(期待権侵害)に基づき、同社に対し、損害賠償金422万4000円およびこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

2.前提事実および事件の経過は?

<H社、A社長、B会長およびXについて>

★ H社は、仮想通貨交換業等を目的とする会社である。同社は関連会社であった甲社の事務所の一角に事務所を構えていたが、2018年9月、甲社から切り離して別資本に買収されたことに伴い、2019年2月、商号を現商号に変更し、事務所を移転した。なお、2019年1月から2月までの時点におけるH社の代表取締役は、社長のAおよび会長のBの2名であった。従業員の採用を決定する権限はBにあり、Aはその権限を有していなかった。

★ Aは、2010年4月、甲社に入社し、2017年6月、同社に籍を残したままH社の代表取締役に就任した後、上記のとおりH社が買収された際、甲社を退社した者である。

★ Bは、H社が買収された際、同社の経営責任者として派遣され、代表取締役に就任した者である。

★ Xは、2016年5月から2019年2月までの間、甲社に雇用されて勤務していた者である。


<一次面接、二次面接、甲社退職後のXの給与等について>

▼ 2019年1月21日、XはAと面会して、H社へ転職したいと告げた。AはXに対し、現場責任者およびBとの面接を受けてもらう旨の説明とともに、採用された場合の給与は当時Xが在籍していた甲社での給与(月額34万円)を上回る月額39万円となることを明言した。

▼ Xは同月31日、H社の現場責任者であるシステム部ディレクターらとの面接を受けた(以下「一次面接」という)。

▼ 同日、Xと甲社における元同僚でH社に転職していたCはLINEで次のメッセージをやり取りした。

 X「Cさんが甲社を退職されたとき、退職願を出しましたか? それとも、退職届でも大丈夫でしたか?」
 「口頭で伝えて、その後、退職届を出しました」

▼ 一次面接終了後、AはXに対し、面接の結果が良好である旨を告げるとともに就業開始の具体的日程にも言及した。同年2月1日、Xは甲社に同月末日付での退職届を提出した。

▼ Xは2月19日、採用に関し、Bとの面接を受けた(以下「二次面接」という)。二次面接を終えたBはAに対し、Xに就労への意欲が感じられなかったなどとして、Xを採用しない意向を示した。

▼ AおよびCはBに対し、「Xを期間6ヵ月の有期契約で採用し、期間満了時に契約終了・更新・無期転換のいずれにするか判断すること」を提案し、Bは「3ヵ月の有期契約・給与月額30万円」でXを採用することを了承した。

▼ H社は同月26日以降、Xに対し、「期間3ヵ月・給与月額30万円の有期労働契約」とする旨を提示したが、Xはこれを受け入れず、同社において就労することはなかった。

ここから先は

3,192字
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?