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#254 「日本板硝子事件」東京地裁

2010年3月3日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第254号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【日本板硝子(以下、N社)事件・東京地裁判決】(2009年8月24日)

▽ <主な争点>
新旧早期退職制度間における退職金差額相当額の支払い請求等

1.事件の概要は?

本件は、N社の元従業員であるXが、既存の早期退職制度(「ネクストライフサポート制度」)によって退職したXについて、新設された早期退職制度(「早期退職者優遇措置」)の適用を排除したことは公序良俗に反する等として、同社に対し、債務不履行または不法行為にもとづく損害賠償請求として、ネクストライフサポート制度により支給された退職金と早期退職者優遇措置により支給されるべき退職金との差額相当額(約5100万円)等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<N社およびX等について>

★ N社は、建材用板硝子の製造販売等を主たる目的とする会社であり、国内2位のガラスメーカーであったところ、平成18年6月、当時ガラス業界世界3位の英国のピルキントン社(以下、P社)を買収し、その後世界1位のガラスメーカーを目指して事業展開を行っている。なお、日本板硝子環境アメニティ(以下、NEA社)は、N社の完全子会社である。

★ Xは、昭和29年生まれの男性(平成20年3月31日現在では53歳)であり、N社に入社以来、窯業系建材部門の技術者として勤務していたところ、平成5年に同社の関連会社に在籍出向を命じられた後、12年にNEA社に在籍出向を命じられ、同社の建材事業部門において勤務していた。

★ Xは18年10月以降、NEA社の取締役兼建築エンジニアリング東京事業部長の地位にあり、20年3月当時、雇用契約に基づき月額102万4382円の賃金(食事手当を含む)の支払いを受けていた。

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<ネクストライフサポート制度と早期退職者優遇措置等について>

★ 18年から実施されているネクストライフサポート制度の概要は、以下のとおりである。

(1)制度の目的・・・従業員の価値観の多様化に対応し、N社以外の場での活躍を求める従業員の転進のための支援金支給により退職以降のライフプランのサポートを行うこと
(2)対象者・・・退職日時点で満40歳以上の非組合員幹部職群4級以上で60歳定年到達の1年前までの者
(3)募集期間・・・平成18年は年2回、19年以降は年4回
(4)退職金等の基準
 自己都合退職金(または退職年金一時金)を支給する。
ii 退職日現在の年齢により、所定の支援金を支給する。19年12月の募集時には、退職時に50歳から54歳までの間にある者については、50歳の者には年俸(諸手当を除く)の1.5年分に450万円を加算した額が支給され、以降1歳経過するごとに年俸の0.1年分を減じた額(たとえば、53歳の者には年俸の1.2倍に450万円を加算した額)が支給されるものとされていた。
(5)面接の実施・・・面接をして勧誘・勧奨はしない。

★ Xが19年12月時のネクストライフサポート制度の募集に応じた場合、退職日は原則として20年3月31日となり、支給されるべき退職金は4655万2318円(うち支援金分は合計1890万7218円)である。

★ 20年3月に募集が開始された早期退職者優遇措置の概要は、以下のとおりである。

(1)制度の目的・・・P社買収を契機に世界一のガラスメーカーとなるため、財務基盤を固める必要があり、とりわけ利益率が低い日本での収益力改善に優先的にり組む必要があり、グローバル組織としての改革についていく自信のない管理職の他社への転進を促すこと
(2)対象者・・・20年1月10日時点での管理職。ただし、同年3月31日または4月1日付のネクストライフサポート制度適用退職者を除く(以下「本件除外条項」という)
(3)募集期間・・・20年3月6日から同年4月18日
(4)退職日・・・原則として20年5月31日
(5)退職金等の基準・・・生年月日が昭和28年3月2日から33年3月1日までの者については、以下のとおりである。
 会社都合退職金(特別餞別金を含む)を支給する。
ii 年俸(役割給、職務給、業績給の合計額)の5年分と退職時の累計ポイント×1000円×(1.00-0.82)の数式により算出される金額との合計を加算金として支給する。
(6)面接の実施・・・自発的な応募を基本としたが、人員削減の効果を挙げるため、対象者全員に通知をした上で面接を実施し、勧誘・勧奨も行った。

★ Xが早期退職者優遇措置の募集に応じた場合、退職日は原則として20年5月31日となり、支給されるべき退職金は9758万5075円(うち加算金分は合計6543万9975円)を下回らない。

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<Xが退職に至った経緯等について>

▼ 18年8月、NEA社の建材事業部門がニチアス社に営業譲渡され、NEA社は防音・音響工事等の音関係の事業に注力することとなった。同社に残ったXは、音関連業務のマネジメントと自らの専門性とにズレが生じてきたと感じるようになり、転職することを考えるようになった。

▼ N社は19年11月、ネクストライフサポート制度に基づく同年度12月期の退職希望者を募集した(募集期間は同年12月3日から同月28日までであった)。

▼ Xは上記募集に応じることとし、N社に対し、ネクストライフサポート制度の適用を受けることを理由とし、退職日を20年3月31日とする19年12月25日付退職届(以下「本件退職届」という)を提出した。

▼ N社は20年2月28日、プレスリリースにて管理職を対象に早期退職者優遇措置を実施することを公式に発表し、同措置の詳細については、同年3月以降に同社の担当者から同措置の適用対象者に対して制度説明資料および個人別加算金額の試算額を通知することとした。なお、XはN社により、本件除外条項に基づき、早期退職者優遇措置に関する上記通知を受けなかった。

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