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#140 「光輪モータース事件」東京地裁

2006年6月14日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第140号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【光輪モータース(以下、K社)事件・東京地裁判決】(2006年2月7日)

▽ <主な争点>
通勤手当の不正受給を理由とする懲戒解雇の効力

1.事件の概要は?

本件は、通勤手当の不正受給を理由として懲戒解雇されたXが、懲戒解雇の無効を主張して労働契約上の地位確認および賃金の支払いをK社に対して求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<K社およびXについて>

★ K社は、オートバイ、オートバイ用品等の販売を主な業務内容とする会社である。

★ Xは平成6年9月、K社に雇用され、主にオートバイ用ヘルメットやブーツ等の接客販売に従事し、16年6月の懲戒解雇当時は倉庫業務に従事していた。

★ Xは個人加盟方式の労働組合である全統一労働組合(以下「全統一」という)の組合員であり、そのうちK社従業員で構成されるK社分会(以下「分会」といい、全統一と一括して「組合」という)に所属する者である。

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<本件不正受給等について>

▼ 10年5月、Xは転居に伴い、K社に対し、通勤経路(以下「従前の通勤経路」という)を申告した。当時、従前の通勤経路による1ヵ月の定期代は4万0910円であったが、その後の運賃改定により4万3270円となった。

★ その当時、K社と組合との間において「通勤交通費は実費を支給する」旨の合意がなされていた。

▼ 同年11月頃、Xは通勤経路を変更したが、この変更をK社に申告することなく、15年6月までの間、従前の通勤経路に基づく通勤手当を受給していた(以下「本件不正受給」という)。変更後の通勤経路による1ヵ月の定期代は3万6460円である。

★ Xの住所地から勤務先までの通勤経路としては、従前の通勤経路が通勤時間および距離的にみて最も合理的であり、変更後の通勤経路は従前の通勤経路と比較すると、5分から10分程度余計に時間がかかり、徒歩による移動距離も長くなった。

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<本件懲戒解雇に至った経緯>

▼ 15年7月、K社のA代表は通勤手当の見直しをするとして、全従業員に対し、領収書または定期券のコピーを提出するように求めるとともに、提出しないかぎり通勤手当を支給しない旨を告知した。

▼ これに対し、組合は通勤手当の支給方法に関する従前の取扱いに関する合意を一方的に破棄するものであるとして、K社に対し、団体交渉(以下「団交」という)を求めるとともに、Xを含む分会員17名全員が定期券のコピーの提出を拒否した。

▼ K社は同月から定期券のコピーを提出しない分会員に対し、通勤手当の支給を停止し、同年9月、Xほか1名に対し、過剰な定期代を支給していた疑いがあり、事実確認のため、上記コピーを提出するよう求めた。

▼ 組合はK社に対し、通勤手当の支払等とともに団交の開催を求め、Xは組合を通じ、従前の通勤経路に基づいて「定期代申告書」およびインターネットの路線情報を表示した書面を提出した。これに受けて、K社は分会員に対し、支給を停止していた3ヵ月分の通勤手当を支給した。

▼ その後、K社はXと面談し、通勤経路等について問い質したが、Xは明確な説明をしなかった。また、同年11月から翌16年3月までに何度か開催された団交の場においても本件不正受給の問題は取り上げられなかった。

▼ 16年5月、K社はXに対し、通勤定期代を虚偽請求していたことなどについて説明するよう求め、回答がない場合、就業規則に則り相応の処分をする旨通告した。

▼ 組合は同年6月、Xの通勤定期代の問題について、「当初、通勤費を割り出すベースについて、組合との協議の結果、公共機関である定期代の1ヵ月分を基盤として支払うと決定した。その際、最初に定期のコピーを提出すれば、その後は給料に組み込むということで、一番距離的にも合理性のある経路の金額を請求し、それを元に支給された金額内での“通勤費”という解釈でいた」との回答を示した。

▼ K社は同年6月28日、Xに対し、同日付で懲戒解雇する旨意思表示した(以下「本件懲戒解雇」という)。

★ 同日付の解雇通知書には、以下のとおり記載されていた。

「あなたを、就業規則第46条に基づき、16年6月28日をもって解雇いたします。
(解雇理由)
あなたは、通勤定期代を会社に請求するにあたり、虚偽の請求を行い、不正に定期代を受給していました。これは就業規則第39条11項ならびに第45条11項の規定する行為に該当する」

▼ 組合は同年7月の団交において、K社に対し、本件不正受給にかかる通勤手当の差額を返還する意思がある旨を申し出た。同年8月、組合はK社に対し、組合の独自調査によりXの「思い違い」による定期代差額として現金34万7780円を持参してその返還を申し出たが、K社はこれを拒絶した。

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<K社の就業規則について>

★ K社の就業規則には、以下のような定めがある。

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