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#417 「K社事件」東京地裁

2016年8月3日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第417号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【K社事件・東京地裁判決】(2015年6月2日)

▽ <主な争点>
経歴詐称等を理由とする労働者に対する解雇、損害賠償請求など

1.事件の概要は?

本件は、平成25年12月からK社で稼働していたところ、経歴能力の詐称等を理由として26年4月25日かぎりで解雇(本件解雇)されたXが本件解雇は解雇権の濫用として無効であると主張して、同社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金44万円余等の支払を求め、さらには本件解雇後3ヵ月分の賃金合計180万円等の支払を求めたもの(本件本訴事件)。

一方、K社は、Xが職歴、システムエンジニアとしての能力および日本語の能力を詐称して同社を誤解させて雇用契約を締結させたものであり、詐欺に当たるとして、Xに支払った賃金合計230万余のほか、Xに代わり業務を行う者の派遣を受けて支払った2ヵ月分の賃金120万円との差額124万円余の損害を受けたと主張した(本件反訴事件)。

2.前提事実および事件の経過は?

<K社、Xおよび本件雇用契約について>

★ K社は、WEBマーケティング(インターネット技術を利用した企業マーケティング)のサービスを提供している会社である。同社は平成25年8月以降、職種を「システムエンジニア・プログラマー」、仕事の内容を「システム開発業務」、給与を「40万円~60万円」として求人をしていた。

★ Xは、25年12月、K社との間で雇用契約(以下「本件雇用契約」という)を締結した者である。

★ 本件雇用契約の内容は、次のとおり定められている。
(雇用開始年月日)平成25年12月1日
(雇用形態・雇用期間)正社員・期間の定めなし
(従事業務内容)システムエンジニアリング業務および付帯する管理業務
(賃金等)給与等体系:年俸制、月額給与合計金額600,000円

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<Xの履歴書、職務経歴書の記載、日本語能力等について>

★ XがK社に提出した履歴書では、「職歴」の末尾にI社に現在在職中である旨が記載されていたほか、「外国語のスキル」として、日本語がビジネスレベルにある旨などが記載されていた。

★ I社において、Xは実際には24年8月に入社した後、25年3月に普通解雇されており、解雇の理由は会社の業績不振とXの能力が期待値(本人の申告)より低かったこととされている。また、Xの履歴書はX一人で作成したわけではなく、就職活動支援会社の手助けを受けて作成したものであり、実際のXの日本語能力は基本的な文法等を十分に理解していなかった。

★ Xが提出した職務経歴書では「経験・スキル」として「●要件定義からシステム設計、開発、納品、保守までシステム開発における全行程に精通。●専門分野に特化した協力企業の取りまとめ役の経験があり、他社・他部門との円滑な調整を行う能力。」などが記載されていた。

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<本件解雇に至った経緯等について>

▼ K社は26年2月、画像解析および日本語コンテキスト解析システムの開発業務について、開発期間を2ヵ月程度として、Xに任せることにしたが、同年3月になって、任せておけないと判断し、別の開発者に委任することにした。そして、派遣会社から開発者の派遣を受け、派遣料として合計約244万円を支払った。

▼ K社は26年3月20日、Xに対し、画像解析の抽出システムに関する設計書の作成を命じたところ、Xは設計書を作成しフォルダに保存した旨報告したが、実際にはすでに外部で発表されていた論文を盗用したものであった。

▼ K社は同年3月25日、Xと面談した際(以下「本件面談」という)、4月25日をもって解雇する旨を通知した(以下「本件解雇予告」という)。

▼ K社がXに対して発送した解雇予告通知書には概ね次のような解雇事由が記載されている。
(1)採用条件となっていた経歴能力(日本語読み書きおよび聴き取り能力、システム開発の実務経験値)を詐称した。
(2)詐称の発覚を隠すため、K社および同社社員からの指導等を一切聞き入れない態度をとり、善意で助言を行ったK社社員に対し、暴言や恫喝的な態度をとり続け、高圧的な態度により同社社員の業務成果を奪った。
(3)社外研究資料を無断盗用し、あたかも自ら考案し作成した資料のように見せかけて提出するなど、K社に対する迷惑行為、欺く行為を繰り返した。
(4)(1)ないし(3)の行為を改善するよう再三指導したが、指導の受け入れを事実上拒否し、改善の見込みがない。
(5)Xは自らの行為の非を認めながらも謝罪を一切せず、K社の都合等を顧みず、利己的な主張を繰り返して開き直った。
(6)自らK社に解雇通知の提出を要求し、周囲への攻撃的態度を先鋭化させ、同社の業務遂行に支障をきたす混乱状態をもたらした。

★ Xは26年3月26日から4月25日までの間、出社しなかった。

▼ K社は26年4月11日、就業規則61条(懲戒事由)のうち、【勤務態度等】の2号(正当な理由がなく、就業を拒み、または無断欠勤をしたとき)等に基づき、同月14日から22日までXを出勤停止処分とした。引き続き、同社は同月23日から25日までの3日間、Xを出勤停止処分とした。

3.元社員Xの主な言い分は?

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