#215 「ミヤショウプロダクツ事件」大阪地裁
2008年9月3日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第215号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【ミヤショウプロダクツ(以下、M社)事件・大阪地裁判決】(2006年5月15日)
▽ <主な争点>
新社屋への移転によるシックハウス症候群への罹患と安全配慮義務
1.事件の概要は?
本件は、M社に勤務していたXが、同社の社屋で行われた改装工事で使用された内装材料からホルムアルデヒドが発生したために化学物質過敏症に罹患したとして、M社に対し、雇用契約に基づく安全配慮義務違反に基づき損害賠償を求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<M社およびX等について>
★ M社は、日用品雑貨の企画および販売等を業とする会社である。同社は、平成12年5月、地上7階建ての建物(以下「新社屋」という)に改装工事を施した上で移転した。
★ Xは、11年3月、M社に年俸契約社員として入社し、家庭日用品全般の商品の企画開発を行う商品第3部制作課に配属され、上記移転に伴い、新社屋で勤務していたが、新社屋移転後、体調を崩し、12年8月から休職し、14年4月に退職した。
★ M社の商品第3部制作課は、日用雑貨品等について、製造業者からの商品の買付けや製造業者との共同による新製品の開発を行っている。同課では、商品に化学物質を使用することもあり、Xは上司であるA副部長から化学物質の勉強を指示されたり、同僚から化学薬品のデータの読み方などを教えてもらったりしていた。
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<本件発症に至った経緯等について>
▼ Xは12年5月、新社屋内で吐き気、頭痛、身体のかゆみ、喉の痛み、発熱などの症状を訴えた。同年6月上旬、Xは市立病院耳鼻咽喉科を受診し、スギ花粉症を指摘され、「アレルギー性鼻炎、急性扁桃炎」と診断された。
★ 新社屋において勤務していた他の従業員の中にも有機溶剤のような臭いがするという者はおり、普段は使われず締め切られている会議室において、目を赤く腫らしたり、鼻水を出したりする者がいたが、Xを除き、従業員の症状は徐々に軽減・消滅していった。
▼ Xについては、新社屋内で出る咳が激しくなって呼吸困難な状態になることもあり、微熱が続き、全身倦怠感があるなどしたため、同年6月下旬から7月上旬にかけてCクリニックを受診して検査を受けたが、異常は認められなかった。
▼ 同年7月下旬、M社では内覧会が開催されたが、Xは商品展示室、会議室において準備作業に従事したところ、内覧会の後に症状が悪化した。そこで、D耳鼻科を受診したところ、アレルギー症状であるだろうとの診断を受け、シックハウス症候群の可能性を指摘された。
▼ Xは、「アレルギー性鼻咽頭炎、アレルギー性気管支炎、シックハウス症候群(疑)により、精査加療の必要性を認める」旨が記載されたE医師作成による診断書をM社に提出し、1週間自宅にて療養した。この際、E医師からM社のB総務部長に対し、Xの症状説明に加え、換気等による社内空気清浄が必要であることが電話で伝えられた。
▼ 同年8月上旬、症状がやや軽快したことからXは出社したものの、気分が悪くなり、咳や鼻血のほか耳からも出血するなどの症状が出て仕事に支障を生じたことから、再び欠勤(休職)した(以下「本件発症」という)。
▼ 13年2月、Xは大阪府商工労働部勤労者健康サービスセンターを受診したが、血液生化学検査では異常が認められず、アレルギー検査ではスギのみ陽性で、ホルムアルデヒド、ハウスダスト、カビ、ダニ等は陰性であった。また、めまい検査では自律神経失調の所見が認められた。
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<新社屋内のホルムアルデヒド濃度および本件発症後のXの症状等について>
▼ Xが12年12月に労災保険の請求を行ったのを受けて、13年7月に労働基準監督署の担当者がM社の職場7ヵ所の空気中のホルムアルデヒド濃度を測定したところ、平均で0.034ppm、最も高かった会議室の奥では0.053ppmであった。
★ 14年3月に厚生労働省が発表した「職域における屋内空気中のホルムアルデヒド濃度低減のためのガイドラインについて」によると、0.08ppm以下が指針値とされている。
▼ Xは、K大学付属病院等に通院していたが、16年3月、同病院のF医師により、「化学物質過敏症、眩暈症(げんうんしょう)」との診断名で、症状の発現しない環境下での就労は可能となったことから、症状固定したと診断された。
▼ Xは、17年11月、労働基準監督署長により、後遺障害等級12級12号の認定を受け、労災保険より、治療費として101万0420円、休業補償として632万7162円、障害補償として120万8688円を受給した。
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