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#248 「瀧本事件」大阪地裁

2009年12月9日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第248号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【瀧本(以下、T社)事件・大阪地裁判決】(2008年8月22日)

▽ <主な争点>
自主退職の意思表示の強迫を理由とした取消し等

1.事件の概要は?

本件は、解雇無効または自主退職の意思表示の強迫を理由とした取消しによる無効を主張するXが、(1)雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、(2)月例賃金の支払い、(3)夏季および冬季の賞与の支払いならびに(4)名誉毀損についての慰謝料をT社に対し、求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<T社およびXについて>

★ T社は、「スクールタイガー」の商標名で学生服の製造・販売を主たる業とする会社であり、東京、名古屋、福岡、札幌に支店を有する。

★ X(昭和26年生)は、昭和49年3月、T社に入社し、以後、同社で就労していた者である。平成18年7月当時、Xは主任の地位にあった。なお、Xは11年7月に勤務地限定社員* となった。

* T社における「勤務地限定制度」とは、転居を伴う転勤をすることなく、特定の地域に勤務する従業員に関する人事処遇制度をいう。

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<Xが退職するに至った経緯等について>

▼ T社の人事担当責任者であったA取締役管理本部長兼総務部長およびB総務部長代理は、18年7月8日、利用状況を確認するため、7階へ移動予定であった4階見本室に設置のパソコン(以下、「本件コンピュータ」という)を起動して業務内容を確認したところ、「TANAKA」という名前の付されたフォルダを発見した。

▼ 上記フォルダの中には、総務部以外には存在しえない人事総務関係のデータが多数存在していた。さらにA取締役らが見本室内を調べたところ、総務、財務関係のデータが入ったフロッピーディスクが発見された。

▼ 本件コンピュータは、同月11日までに7階に移動された。A取締役らは移動された本件コンピュータを起動し、再度内部に保存されたフォルダを確認したところ、「TANAKA」のフォルダは削除されていた。

★ 本件コンピュータは、他の者も利用することはあったものの、Xも業務で使用するコンピュータであったが、見本室に常駐して勤務していたのはX1人だけであった。そのため、Xは本件コンピュータを事実上管理する担当者と目されていた。

▼ 翌12日、A取締役らは午前10時頃から11時頃までの間、Xから事情聴取をした。その際、A取締役らはXに対し、「TANAKA」のフォルダの存在や、その中に人事総務関係のデータが存在していたこと等について知っていたのか確認した。この際の事情聴取は軽い感じで、詳細を知りたいという内容であった。

▼ 翌13日、A取締役らはXに対し、再度、事情聴取を行ったが、この際も軽い感じで、詳細を知りたいという内容であった。

▼ 翌14日、A取締役らが某部長に対して事情聴取を行ったところ、約2年前、Xからコンピュータ内の人事関係のデータを見せられたことがあった旨告げられた。

▼ 同月20日、A取締役らはXと面談を行った。この際の状況については、争いがあるが、最終的にA取締役らがXに対して退社届の書式を渡したこと、Xにつき、懲戒解雇をするには、T社の就業規則に規定される懲戒委員会を開催する手続が必要であるとの認識をXを含む関係者が有していたことは少なくとも認められる。

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