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#363 「甲タクシー事件」千葉地裁

2014年6月18日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第363号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【甲タクシー(以下、甲社)事件・千葉地裁判決】(2012年11月5日)

▽ <主な争点>
タクシー運転手に対する懲戒解雇処分など

1.事件の概要は?

本件は、X(タクシー運転手)が甲社から解雇(本件解雇)されたが、本件解雇は解雇事由がなく、また、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当ではないものであって、権利を濫用したものとして無効であり、違法であると主張して、同社に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、賃金1ヵ月15万円余およびこれらに対する遅延損害金の支払いを求めるとともに不法行為に基づき、慰謝料50万円等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<甲社およびXについて>

★ 甲社は、タクシー業を経営し、一般旅客自動車運送事業等を目的とする会社である。

★ Xは、平成21年1月、甲社との間で、「業務内容:タクシー運転手、賃金:累進歩合給(基本給1ヵ月173時間×750円=12万9750円、歩合給1ヵ月43万円を超える金額の50%相当額)」との約定により、雇用された者である。

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<本件就業規則について>

★ 甲社の就業規則(以下「本件就業規則」という)中には、同社の労働者に対する懲戒につき、以下の規定がある(67条)。

(ア)甲社の労働者が次のいずれかに該当するときは懲戒解雇とする。ただし、情状により、その他の懲戒にとどめることがある(同条2項)。
乗車拒否があったとき(同項16号)
不当な運賃および料金の請求または収受があったとき(同号)
重要な服務規律に違反し、または、本件就業規則の定める違反行為を繰り返し、会社の秩序、風紀を乱したとき(同項18号)

(イ)懲戒は、減給、降格および乗務禁止ほか、以下のとおり行う(同条3項)。
けん責
始末書を提出させ、将来を戒める(同項1号)
出勤停止
始末書を提出させ、7日以内の出勤を停止し、その間の賃金は支払わない(同項5号)
懲戒解雇
解雇予告期間を設けることなく、即時に解雇し、退職金は支払わず、所轄労働基準監督署長の認定を受けたときは解雇予告手当を支払わない(同項6号)

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<本事件、本件解雇に至った経緯等について>

▼ 甲社はXに対し、21年9月2日、「Xが同日午前2時頃、同社タクシーを運転して乗客を運送していた途中、当該乗客を下車させ、乗車拒否をした」ため、本件就業規則67条2項16号および3項5号に基づく懲戒として、始末書を提出させ、1日の出勤を停止するとの処分をした(以下「本件出勤停止処分(1)」という)。

▼ これを受けて、Xは甲社に対し、上記乗客に対して下車を強要したことについて、深く反省し、二度としない旨誓約し、同社がXに対してする処分については異議を申し述べないとの旨記載された、署名入りの始末書を提出した。

▼ 甲社はXに対し、同年11月17日、「Xが同月10日午後9時30分頃、同社タクシーを運転して乗客を運送した際、運賃710円につき、Xに対して1万0010円を交付した当該乗客に対し、釣り銭として9300円を交付すべきところ、9000円のみを交付し、その余の300円を交付せず、不当な運賃を収受した」ため、本件就業規則67条2項16号および3項5号に基づく懲戒として、始末書を提出させ、4日間の出勤を停止するとの処分をした(以下「本件出勤停止処分(2)」という)。

▼ これを受けて、Xは甲社に対し、上記乗客に対して釣り銭300円を交付しなかったことについて、深く反省し、二度としない旨誓約し、同社がXに対してする処分については異議を申し述べないとの旨記載された、署名入りの始末書を提出した。

▼ 22年10月12日午後8時40分頃、Xが甲社タクシー(以下「本件タクシー」という)を運転して業務に従事していた際、千葉県市川市内の路上において、一方通行の規制に違反して道路を逆走し、進路前方を自転車(以下「本件自転車」という)を運転して本件タクシーと同一方向に走行していた外国人女性(以下「本件女性」という)に対し、前照灯を点滅させたり、警音器を2回鳴らしたりした後、本件女性との間でもめ事になり、警察官が臨場したとの事件が発生した(以下「本事件」という)。

▼ 甲社はXに対し、同月18日、本件就業規則67条2項18号に該当するとの事由により、同項および同条3項に基づき、同日かぎり懲戒解雇にするとの意思表示をした(以下「本件解雇」という)。なお、同社はXに対し、同月24日、解雇予告手当として17万1272円を支払った。

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