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#587 「A学園事件」徳島地裁

2023年5月10日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第587号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【A学園事件・徳島地裁判決】(2021年10月25日)

▽ <主な争点>
有期雇用契約を相当回数更新してきた職員への雇止めなど

1.事件の概要は?

本件は、A学園との間で契約期間を2017年4月1日から2018年3月31日とする期間の定めのある労働契約を締結したXが、同年4月1日からの契約更新の申込みをしたにもかかわらず、同学園からこれを拒絶されたことに関し、上記労働契約には労働契約法(以下「労契法」という)19条各号の事由があり、同拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとも認められないから、上記労働契約は同条により、同日以降、更新されたものとみなされ、2019年4月1日からは同法18条により、期間の定めのない労働契約に転換したと主張して、A学園に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、上記労働契約が更新されたとみなされる2018年4月1日以降の賃金に関し、民法(平成29年法律第4号による改正前のもの)536条2項に基づき、同年5月から毎月17日かぎり、未払賃金10万9620円
およびこれに対する遅延損害金の各支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<A学園およびXについて>

★ A学園は、平成14年法律第156号に基づき、A大学を設置して、放送による授業を行うとともに、全国各地の学習者の身近な場所において面接による授業等を行うことを目的とする学校法人である。また、同学園はA大学における面接授業(スクーリング)、放送授業の再視聴、ゼミ・勉強会、研修旅行、講演会、文化祭、サークル活動等を行う場として、各都道府県に学習センターやサテライトスペースを設置している。

★ X(昭和38年生)は、2006年3月から徳島県内のB学習センターにおいて「時間雇用職員」として稼働していた者である。


<本件労働契約、本件決定、本件上限規定等について>

▼ XはA学園との間で、2006年3月1日、契約期間を同日から同月31日までとする期間の定めのある労働契約を締結した後、2007年から2017年までの間、合計11回にわたり、1年間の期間の定めのある労働契約を更新し(以下、2017年4月1日に更新された労働契約を「本件労働契約」という)、Bセンターで図書室・視聴学習室受付等の事務に従事してきた。なお、XはA学園からその都度、雇入通知書を受領していたが、労働契約書は作成していない。

▼ A学園の常任理事会は改正労契法18条が2013年4月1日から施行されることを踏まえ、同年3月、「期間業務職員および時間雇用職員の再雇用の取扱いについて」(以下「本件基準」という)を一部改正する旨決議(以下「本件決定」という)し、同年4月1日以降に再雇用される者の契約期間は通算5年を超えることができない旨(以下「本件上限規定」という)を定めた。

▼ A学園は同年3月22日頃、Xに対し、書面で本件上限規定と同旨の内容を通知し、従来からの取扱いの変更に伴い、承諾書の提出を求めたが、Xは提出しなかった。


<本件雇止め、提訴に至った経緯等について>

★ Xは毎年の契約更新に際して、事務長から次年度の更新の希望の有無等を尋ねられ、A学園から辞令及び雇入通知書の交付を受けていた。雇入通知書には、2011年度以降、「1.雇用の更新の有無(更新する場合があり得る) 2.雇用の更新は労働者の勤務成績・態度・能力および業務上の必要性により判断する」との記載があったが、2013年度以降は、これに「3.雇用の更新の回数については、期間業務職員および時間雇用職員の再雇用の取扱いについて定めるところによる」との記載が追加された。

▼ A学園はXと2017年度の契約更新を行ったが、その際、Xに対し、「1.雇用の更新の有無 無」との記載がある雇入通知書を交付し、次年度(2018年度)の更新をしない旨を伝えた。

▼ Xは2018年4月11日付の書面において、同年4月1日以降の契約更新の申し込みをしたが、A学園から拒絶された(以下「本件雇止め」という)。

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