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#388 「千葉県がんセンター事件」千葉地裁(再掲)

2015年6月17日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第388号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【千葉県がんセンター(以下、Gセンター)事件・千葉地裁判決】(2013年12月11日)

▽ <主な争点>
内部通報を理由とする処遇上の不利益(報復措置)など

1.事件の概要は?

本件は、Gセンターの手術管理部に所属する麻酔科医であったXが同部で実施する歯科医師の医科麻酔科研修の問題点に関し、センター長に対して上申をしたところ、それ以来、部長から同センターで実施する一切の手術の麻酔担当から外すなどの報復措置を受け、退職を余儀なくされたと主張して、Gセンターの設置者である千葉県に対し、国家賠償法1条1項または民法715条(使用者等の責任)1項に基づく損害賠償(慰謝料の支払い)を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<千葉県、X、AおよびBについて>

★ 千葉県(以下「」という)は、地方公共団体であり、地方公営企業法および病院事業の設置等に関する条例に基づく病院事業として、Gセンターを設置している。

★ Xは、医師であり、県から平成19年8月頃にGセンターの非常勤職員として、また、22年4月には正規職員として、それぞれ任用され、手術管理部麻酔科において、主として、手術前の患者の診療(以下「術前診療」という)や、手術において実施する麻酔(以下「手術麻酔」という)を担当していた。

★ Aは、平成22年当時のGセンターのセンター長であった者である。

★ Bは、Gセンターの手術管理部長である。なお、平成22年当時、同センターの手術管理部に正規職員として勤務する医師はB部長およびXの2名であり、同部長はXの直属の上司に当たった。また、B部長は社団法人日本麻酔科学会の認定する麻酔科指導医であり、Xは同学会の認定する麻酔科専門医であった。

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<本件研修、本件ガイドラインについて>

★ Gセンターでは平成22年当時、歯科医師の医科麻酔研修を実施しており、いずれも歯科医師であるCほか3名が医科麻酔科研修という位置づけの下に手術管理部麻酔科で勤務していた(以下、Gセンターで実施されていた医科麻酔科研修を「本件研修」という)。

★ 厚生労働省は平成22年当時、歯科医師の医科麻酔科研修について、次の内容を含むガイドライン(以下「本件ガイドライン」という)を定めていた。

(1)研修指導者は、麻酔科指導医、麻酔科専門医または社団法人日本麻酔科学会の麻酔医認定医であることを要する。
(2)研修を受ける歯科医師と研修施設の麻酔科の長は当該歯科医師の研修開始時および終了時、必要な事項の登録または報告等を行う。
(3)研修指導者が研修症例における麻酔の責任担当者となり、麻酔記録上の筆頭者とならなければならない。
(4)研修指導者の資格を有する医師は患者に対し、歯科医師が研修の目的で麻酔行為に参加することを説明し、その同意を得なければならない。
(5)研修を受ける歯科医師が歯科および歯科口腔外科疾患以外の症例に関する行為に関与する場合、研修水準にしたがって、研修指導者による必要な指導、監督が行わなければならない。研修水準は研修項目ごとに定められており、研修水準AおよびBの研修項目は研修指導者の指導、監督の下(同水準Aの場合)、またはその介助の下(同水準Bの場合)、歯科医師による実施が許されるが、研修水準CおよびDの研修項目は歯科医師による実施が禁止され、研修指導者の介助(同水準Cの場合)または見学(同水準Dの場合)にとどめるものとされている。

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<XのAセンター長に対する上申、退職に至った経緯等について>

▼ Xは22年7月、Aセンター長に対し、本件研修が本件ガイドラインに違反している旨などの上申をしたところ、同センター長はB部長に対し、本件ガイドラインを遵守しているかどうかを確認した。

★ Gセンターにおいては、22年4月1日から7月31日までの間に毎月171件ないし207件の手術が行われていた。B部長はこれらの手術についての麻酔科における術前診療の担当者および手術の担当者を定め、毎週金曜日に翌週1週間分の手術の予定、麻酔を担当する医師の氏名等を記載した手術室予定表を作成して周知させていた。

▼ Xは22年4月から7月までの期間にはB部長の作成した手術室予定表に定めるところにより、毎月12件ないし21件の手術麻酔を担当した。これに対し、上記上申後の同年8月9日から13日まで、16日ないし20日までのそれぞれ1週間には、手術室予定表において手術麻酔の担当の割当てを受けず、Gセンターにおける手術麻酔を担当しなかった。

▼ Xは22年8月31日、Aセンター長に対し、退職届を提出し、同年9月1日から同月30日まで休暇を取得した後、Gセンターを退職した。

▼ 県警察は23年2月、B部長およびC歯科医師に対する医師法違反(無資格医業、医師法31条1項1号、17条参照)被疑事件の捜査を開始した。この事件については、検察官送致を経て、24年3月、被疑者両名が起訴猶予処分を受けた。

3.医師Xの主な言い分は?

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