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#261 「藍澤證券事件」東京地裁

2010年6月9日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第261号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【藍澤證券(以下、A社)事件・東京地裁判決】(2009年9月28日)

▽ <主な争点>
雇用継続に対する合理的期待の有無と雇止めの効力等

1.事件の概要は?

本件は、期間満了として退職したとされたXが、雇止めは無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、雇止め以降の賃金(約140万円)等の支払いを求めるほか、在籍中に同僚Yから嫌がらせを受けて精神的苦痛を被ったとして、債務不履行(安全配慮義務違反)または不法行為(使用者責任)に基づき、慰謝料(200万円)等の支払いをA社に対し、求めたもの。

なお、求人票の雇用形態は正社員とされていたところ、XとA社は契約社員として、期間を平成18年5月21日から同年10月31日までとする第1契約、同年11月1日から19年3月31日までとするほかは第1契約と同じ約定の記載がある第2契約を締結した。

本件は、当初労働審判事件として申し立てられたが、相手方であったA社が労働審判に異議申立てをしたため、通常の裁判手続に移行した。

2.前提事実および事件の経過は?

<A社およびXについて>

★ A社は、総合証券業を主たる業とする会社であり、本社所属の従業員は約200名である。

★ Xは、昭和33年生まれの男性であり、精神障害2級(ただし、平成18年4月当時は3級)の認定を受けている。

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<第1契約、第2契約および本件雇止め等について>

▼ A社は18年4月当時、一般事務を担当していた障害者が退職し、法定の障害者雇用率を下回るようになっていた等の事情から、求人票(以下「本件求人票」という)によりハローワークを介して後任の障害者を一般事務要員として募集した。

★ 本件求人票には、「雇用形態は正社員、毎月の賃金は19万0800円ないし24万2000円、試用期間は3ヵ月ないし6ヵ月、仕事の内容は伝票の作成、業務機器操作(パソコン)、集計業務、電話による応対である」旨記載されていた。

▼ XはA社に対し、以下の約定の記載がある雇用契約書に署名押印して提出した(以下、この契約書によって成立する雇用契約を「第1契約」という)。
(1)雇用形態  契約社員
(2)雇用期間  18年5月21日から同年10月31日まで
(3)就業場所  総務人事部
(4)賃金  月額27万4000円
(5)賞与  従業員(正社員)の状況を参考に支給することがある
(6)特約  勤怠、就業状況等を勘案し、特段の問題がない場合は契約終了時に雇用期間を定めない社員(正社員)へ登用することができる。ただし、不適格な場合は登用しない(以下、この特約を「登用特約」という)

★ A社における契約社員に適用される「契約社員等就業規則」では、採用の日から3ヵ月間を試用期間とするほか(4条1項)、契約期間は原則として1年であり、年度の途中で契約した者については当該年度の期末をもって期間満了とし(6条1項)、この期間満了を理由として退職したものと扱うが(16条1号)、前年度の勤務成績を勘案し、次年度の雇用条件、待遇、その他の就業に関する事項を決めて毎年4月1日付で更新を行うことができる(7条)旨定めている。

▼ XはA社に対し、雇用期間を18年11月1日から19年3月31日までとするほかは第1契約と同じ約定の記載がある18年11月1日付雇用契約書に署名押印して提出した(以下、この契約書によって成立する雇用契約を「第2契約」という)。

★ XはA社在籍中、総務人事部に所属し、郵便物の仕分けおよび社内各部署への配達、名刺の作成等の業務に従事していた。

▼ A社はXに対し、遅くとも19年2月28日までには勤務成績不良等を理由として第2契約を更新しない旨告げた上、同日以降の就労を免除する旨の意思表示をした。

▼ さらに、A社はXに対し、同年3月15日付文書で、「名刺作成において製作ミスおよび印刷ミスによって大量の誤印刷による損害を発生させたばかりか、その他郵便物の仕分け作業においても他部署に発送するなど、再三にわたる指導にもかかわらず、単純作業においてミスを繰り返し、職務不良が甚だしく、これ以上の改善が見込めない」という理由でXの雇用期間は同月31日までとし、更新はしない旨を改めて通知した。

▼ A社はXが同月31日で期間満了により退職したものと扱った(本件雇止め)。

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