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#132 「あしたばの会事件」東京地裁

2006年4月12日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第132号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【あしたばの会(以下、A法人)事件・東京地裁判決】(2005年11月24日)

▽ <主な争点>
児童の前髪を保護者に無断で切断した保育士に対する減給の懲戒処分の効力

1.事件の概要は?

A法人が運営するY保育園の保育士として勤務しているXが児童の前髪を保護者に無断で切断したところ、同保育園から減給の懲戒処分を受けた。本件はXが当該処分は無効であるとして、同保育園に対し、上記処分によって未払いとなっている賃金5,000円の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<A法人およびXについて>

★ A法人はY保育園を設置運営する社会福祉法人である。

★ Xは昭和49年6月、Z保育所に保育士として就職したが、53年4月、同保育所がA法人により設置運営されることになったため、同法人との雇用契約関係に基づいて、Y保育園(以下「保育園」という)に保育士として勤務するに至った。

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<本件行為について>

▼ 平成16年9月8日、Xは児童Bを含めた園児に対する保育業務に従事していたところ、Bの前髪が顔の方に垂れ下がり、目の中に入ると危険であったことから、Bに「切ってあげようか」と声をかけた。Bも「ウン」と述べてうなずいたことから、Bの髪の毛先を鋏で切断した(以下「本件行為」という)。

▼ 翌9月9日、保護者であるCは児童Bを伴って登園した際、Bのクラスを担当する補助職員に対して、「これはちょっと」と述べて、Bの頭頂部を示したため、補助職員が確認すると、Bの頭頂部の毛髪の一部が短く切られていた。

▼ その後、X以外の保育園の職員数名がBの頭頂部を確認したところ、職員らは「これはひどい」と言い合った。この経緯をBの担任保育士から聞いたXは同保育士に本件行為の経緯を説明するとともに、Bの頭頂部の毛髪は切断していないことおよび事実経過を保護者CにX自身で説明する旨を伝えた。

▼ 同月10日夕方、Xは保護者Cに会って上記経緯の説明と謝罪を伝えた。

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<A法人がXに対し、本件懲戒処分を行うに至った経緯>

▼ A法人はXに対し、同月27日付の「注意と申し入れ」と題する文書を交付して、本件行為につき注意するとともに、保護者Cに断らず、また児童Bの直接の担当保育士に相談することなく、本件行為に及んだ理由等につき説明を求めた。

▼ これに対して、Xは本件行為の経緯の説明および反省の弁等を記した同年10月1日付の「9月27日付文書に対する回答」と題する文書をA法人に提出した。

▼ ところが、A法人はXが提出した文書では弁明になっていないとして、その後、Xに対し、再三文書を交付して弁明を求めたが、Xはこれに応答しなかった。

▼ 17年1月、A法人はXに対し、Xが16年9月8日に児童Bの毛髪を保護者Cの同意なく切断したことが、就業規則第2条第19条ならびに第20条(1)および(2)に反し、同規則第21条(1)(7)の懲戒事由に該当するとして、減給5,000円とする懲戒処分を行った(以下「本件処分」という)。そして、A法人はXに対し、本件処分に基づき、17年2月分の給与から5,000円を減額して支給した。

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<保育園の就業規則等について>

★ A法人は、保育園の就業規則において、服務規律、表彰および制裁につき、以下のとおり定めている。

第2条 法人および職員は法令に定められたもののほか、すべてこの規則(付属規程を含む)を遵守し、相互に協力して乳幼児の健全な保育に務めなければならない。

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