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#225 「コンドル馬込交通事件」東京地裁

2009年1月21日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第225号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 参考条文

★ 労働基準法 第16条(賠償予定の禁止)

「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」

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■ 【コンドル馬込交通(以下、C社)事件・東京地裁判決】(2008年6月4日)

▽ <主な争点>
誓約書に記載された研修費用返還条項が、労働基準法16条に反するか否か等

1.事件の概要は?

本件は、C社が元従業員であるXに対し、不当利得返還請求として、平成17年6月給与分の前払金合計5万5000円、研修費用返還合意に基づく費用返還請求権として、19万9500円および遅延損害金の支払いを求めたもの。

これに対し、Xは請求原因事実を否認するとともに、C社に対する50万円の慰謝料請求権と16万4000円の未払賃金請求権を有するとして、各請求権をもってC社の各債権と相殺する旨主張した。

原審である東京簡易裁判所がC社の請求を一部認容したところ、Xが敗訴部分の取消しを求めて控訴を申し立てるとともに、C社が原判決の変更を求めて附帯控訴を申し立てた。

2.前提事実および事件の経過は?

<C社およびXについて>

★ C社は、一般乗用旅客自動車運送業(タクシー業)等を営む会社である。

★ Xは、平成17年4月から同年6月まで、C社においてタクシー乗務員として稼働した者である。

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<本件誓約書および本件研修費用返還条項等について>

▼ C社はXとの間で、遅くとも17年4月25日頃までに、Xがタクシー運転手として同社の業務に従事し、同社がXに賃金を支払う旨の合意(以下「本件雇用契約」という)をした。

★ なお、XはC社がスポーツ新聞に掲載した「教習生(実地試験免除)により9日で全員2種合格」、「1種 2種 研修有 日額2万(日払可)高営収で収40万上可」との募集広告を見て、同社の乗務員に応募したが、普通第2種免許(以下「2種免許」という)を保有していなかった。

▼ Xは本件雇用契約の際、「全日本交通安全教育センター(以下「交通センター」という)にかかる2種免許取得費用借入れ誓約書」(以下「本件誓約書」という)に署名押印するとともに、C社における研修条件等を定めた「養成乗務員(教習生)取扱規則」と題する書面に署名押印した。

★ 本件誓約書には、「私は、貴社の乗務員となるべく2種免許を取得するため、交通センターの主催するFモータースクール合宿所において9日間の教習を受講します。つきましては、消費税を含む受講費231,000円を貴社の乗務員として就業することを条件に、借用することを承諾します。返済については貴社、養成乗務員規定の免責事項によるものとし、満期を待たず、やむを得ず退職する際には、受講費全額を返済することを誓約いたします」との記載がある。

★ 養成乗務員取扱規則には、免責事項として、「一種教習生の養成費および二種教習生、経験者の教育実費相当額については全て貸付扱いとし、それぞれ正規従業員として選任された日から出勤率80%以上であるときは、下記の条件により返済義務を免責とする。
                 記
(イ)一種教習生が選任後2年を経過した後  ただし、教育期間が1ヵ月を大幅に経過するも、将来従業員として適当と認められた者については免責期間を延長することがある」との記載(以下、本件誓約書の記載とあわせて「本件研修費用返還条項」という)がある。

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<Xに対する給与の支払い状況、退職後の経過等について>

▼ Xは、17年4月29日から5月7日までの9日間、交通センターにおいて研修を受けた。C社は同月31日、本件誓約書に基づき、交通センターに対し、研修費用19万9500円を立替払いした。

▼ C社は、Xから生活資金の融通の申し入れを受け、Xに対し、同年4月下旬から5月中旬にかけて合計10万5000円(計2回)、同月下旬から6月上旬にかけて合計5万5000円(計5回)、利息を定めることなく、それぞれ交付した。

▼ C社は、同年5月25日頃、Xに対し、4月26日から5月15日までの勤務分に対する給与13万2900円から社会保険料等2万5107円および上記のとおりXに融通した10万5000円を控除した残額として、2,793円を支払った。その際、同社がXに交付した同月分の給与明細書には、「内勤手当13万2900円」、「前払金10万5000円」と記載されていた。


▼ Xは同年6月上旬、C社に対し、雇用契約の合意解約の申し込みをし、同社はこれを承諾した。現在、Xは2種免許を保有し、C社とは別のタクシー会社で稼働している。

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