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#110 「高山労基署長事件」岐阜地裁

2005年11月2日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第110号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 参考条文

★ 労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という)
第7条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
1.(略)
2.労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に 関する保険給付

 前項第2号の通勤とは、労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。

(略)

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■ 【高山労基署長(以下、T労基署長)通勤災害事件・岐阜地裁判決】(2005年4月21日)

▽ <主な争点>
遺族給付等の不支給(「週末帰宅型」通勤途上での事故死は通勤災害に該当するか)

1.事件の概要は?

本件は、Yの夫であるXが自家用車で家族が住む自宅から単身赴任先の社宅に向かう途中、事故によって死亡したのは「通勤」によるものであるとして、YがT労基署長に対し、労災保険法に基づく遺族給付および葬祭給付を請求したところ、同労基署長がXの死亡は通勤によるものではないとして、いずれも支給しない旨の処分をしたことから、Yがこれらの処分の取消しを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<Xの「週末帰宅型」通勤生活等について>

▼ Yの夫であったXは平成8年、A生命保険(以下、A社という)に雇用され、11年4月から岐阜県高山市にある同社のB営業所の所長として勤務することになった。

★ Xは同県土岐市に有していた自宅(以下「本件自宅」という)とB営業所が極めて遠距離であるため、同営業所近辺に居住する必要があったが、家族の事情などから単身赴任することになった。

★ そして、XはB営業所の2階に設置されている社宅(以下「本件社宅」という)に居住し、週末の金曜日には本件自宅に帰宅して日曜日の午後に自家用車で本件社宅に移動する、いわゆる「週末帰宅型」通勤の生活をしていた。なお、本件自宅から本件社宅までの所要時間は自家用車で約3時間30分であった。

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<本件事故について>

▼ Xは平成11年7月30日(金)の勤務終了後、本件自宅に帰宅し、同年8月1日(日)の午後5時30分頃、翌日の勤務のために本件自宅を出発し、自家用車を運転して本件社宅に向かう途中で行方不明となった。

▼ 約4ヵ月後の同年11月26日、Xは岐阜県恵那郡加子母村先の沢の中で死亡しているところを発見されたが、Xの死因は、運転を誤って道路外に逸脱して竹藪に突っ込み、事故現場付近のブロック崖から沢に転落し、胸骨骨折もしくは墜落に伴う全身打撲によるショック死と推定された(以下「本件事故」という)。

▼ YはXの死亡により遺族となり、Xの葬祭を行った。

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<T労基署長による本件処分等について>

▼ Yは13年3月、T労基署長に対し、Xの死亡は通勤災害によるものである旨を主張して、労災保険法に基づく遺族給付および葬祭給付の請求をしたところ、同年8月、T労基署長は、本件事故は通勤災害とは認められないとの理由で不支給処分の決定をした(以下「本件処分」という)。

▼ その後、Yは本件処分を不服として、岐阜労働者災害補償保険審査官および労働保険審査会に対して、それぞれ審査請求および再審査請求を行ったが、いずれの請求とも棄却された。

★ T労基署長がYの上記の請求を不支給とする理由は、以下の通りであった。

(a)通勤災害保護制度にいう「通勤」とは、「就業に関して、住居と就業の場所を合理的な経路および方法により往復する行為」でなければならないところ、Xの本件自宅から本件社宅までの往復行為は、労災保険法7条2項にいう、住居と「就業の場所」との往復行為ではなく、自宅と社宅間の往復行為である。

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