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#575 「Y市教育委員会事件」秋田地裁(再掲)

2022年11月16日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第575号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【Y市教育委員会事件・秋田地裁判決】(2021年7月9日)

▽ <主な争点>
保護者にセクシュアル・ハラスメントに準ずる行為をした教員への懲戒免職処分

1.事件の概要は?

本件は、甲高校の教員であったXが同高校を受験予定の中学生Aの保護者Bに対してセクシュアル・ハラスメントないしそれに準ずる行為を行ったことにより、入学試験制度に対する信頼を損ね、学校教育への信用を失墜させたなどとしてY市教育委員会から懲戒免職処分を受けたことについて、同処分には裁量権を逸脱ないし濫用した違法があるなどと主張して、Y市に対し、同処分の取消しを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<Y市およびXについて>

★ Y市は、Y市教育委員会およびY市公平委員会を設置する地方自治法上の普通地方公共団体である。

★ Xは、2000年4月にY市の臨時職員として採用され、2001年4月以降、甲高等学校(以下「甲高校」という)の教員として勤務し、同高校のレスリング部監督として高い指導実績をあげていた者である。なお、Xは妻帯者である。


<本件各行為、本件処分、本件訴えに至った経緯等について>

★ 甲高校は、「前期選抜試験」という受験方式(中学校の部活動の実績が顕著であること等を出願条件の1つとする試験。以下「前期選抜」という)を設定しており、Xはその受験の合否を決定する会議の構成メンバーであるとともに、レスリング部監督の立場から見て同部の部員として入部させたい中学生をリストアップする権限を一任されていた。

★ 2016年度から2018年度の前期選抜においてXにリストアップされた生徒(毎年4~6名程度)は、後述の生徒Aを除き全員合格している。

▼ Xは2017年11月、甲高校のレスリング部の練習にも参加していた生徒Aの在籍する乙中学校を訪問、Aの甲高校への入学を勧誘し、その旨はAの母であるBに伝えられた。

▼ Aも甲高校で指導実績のあるXの下、レスリングに取り組むことを希望し、その意向は乙中学校を通じて、甲高校やXにも伝えられた。

▼ Xは同月、甲高校(の前期選抜の受験)を志望することになったAの母Bに対し、「入試、部活等で話したいのですが、夕食しながらどうですか?」との記載を含むLINEのメッセージを送信した(以下「本件行為1」という)。

▼ Xは同年12月、Y市内の飲食店においてBと食事をした後の午後8時30分頃、飲食店に隣接する駐車場に停めていた自家用車内において、Bを抱き寄せてキスをし、その後に交際を求めた(「本件行為2」、以下本件行為1と併せて「本件各行為」という)が、Bはそれを拒否した。

▼ Bの話などから本件各行為の経緯を知ったAは甲高校の受験を諦め、進路変更を余儀なくされた。

▼ Y市教育委員会は2018年1月、地方公務員法29条1項の規定により、Xを懲戒免職とする処分(以下「本件処分」という)をした。

▼ Xは同年3月、公平委員会に対し、本件処分について審査請求したが、同委員会は2020年4月、上記審査請求を棄却する裁決をした。

▼ Xは同年10月、本件処分の取消しを求めて、本件訴えを提起した。


<Y市教育委員会職員の懲戒処分等に関する要綱の定めについて>

★ Y市教委は、「Y市教育委員会職員の懲戒処分等に関する要綱」(以下「本件要綱」という)において、地方公務員法29条の懲戒処分に関して、同懲戒処分の対象となる非違行為の種類および懲戒処分の基準を以下のとおり定めている。

第3条 懲戒処分の対象となる代表的な非違行為およびその標準的な懲戒処分の量定(以下「標準例」という)とは、別表のとおりとする。

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