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#168 「X社事件」宇都宮地裁

2007年1月10日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第168号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【X社事件・宇都宮地裁判決】(2006年8月28日)

▽ <主な争点>
解雇した従業員に対する社宅明渡し等の請求

1.事件の概要は?

本件は、X社が社員であったYを解雇したことを理由に、社宅として賃貸していた建物部分についての明渡しと明渡し済みまでの賃料相当損害金の支払いをYに対し、求めたもの。

これに対し、Yは業務遂行中に傷害を負い、休業中であるから、本件解雇は無効である等と主張し争った。

2.前提事実および事件の経過は?

<X社およびYについて>

★ X社は、化学工業製品、毒物、劇物および原材料の製造販売などを目的とする会社である。

★ Yは昭和60年3月、X社に入社した同社の社員であった。

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<本件原契約および本件賃貸借契約等について>

▼ X社は平成14年2月、社宅としてYを居住させる目的でCから物件の建物部分(以下「本件建物部分」という)を、「賃料1ヵ月6万3,000円、賃貸借期間を14年2月から16年1月まで」の約定で賃借した(以下「本件原契約」という)。

▼ X社は14年4月、就業規則と一体となる住宅提供細則の規定に基づいてYとの間で借上住宅・社宅賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という)を締結し、Yに本件建物部分を引き渡した。

★ 本件原契約の賃料6万3,000円についての負担部分は、X社が3分の2、Yが3分の1との定めであることから、YがX社に支払うのは2万1,000円であった。

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<本件解雇に至った経緯等>

▼ Yは15年6月、X社の工場内建物外階段錆び落としおよびペンキ塗り作業(以下「本件作業」という)を行った翌日、腰から少し上あたりに痛がゆい感触を覚え、次第に背中全体に痛みが広がっているのを感じた。

▼ YはX社の産業医による診察を受けたが、一向に症状の変化がなかったため、労災を理由として休暇取得の申請をパソコン上で行い、X社の担当者に労災である旨を話した。その後、本件解雇までYが出社することはほとんどなかった。

▼ X社は、Yが本件作業により休業を要するような傷害を負ったことに疑問を持ち、Yの傷害は労災とは認めがたく、Yに対し、休暇は年次有給休暇として申請するよう求めたが、話し合いは平行線のままだった。

▼ 同年7月、X社はYが就労不能ないし困難な程度に腰部を痛めているのか否かを調査することとし、調査会社にYの身辺調査を依頼した。調査会社がYの尾行調査を実施したところ、Yは自然に歩行し、自動車に乗って買い物に出かけたり、洗車の際に中腰になったり、自動車の外から車内に身体を斜めに入れたりしていた。

▼ X社は本件作業内容や調査会社の調査結果から、Yが就労不可能または困難であるとまでは言えず、Yが労災を理由とする休暇申請を繰り返し行って欠勤を重ねることは正当な理由のない怠業であると考え、懲戒処分が必要であると判断した。

▼ そして、X社はYの本件作業後の欠務に加えて、社会保険料本人負担分等の償還拒否ないし非協力的な態度、女性社員に対するセクハラ、過去の譴責処分にもかかわらず改悛の見込みがないことないし懲戒行為を繰り返したこと、X社の人事労務政策を揶揄する行為があったことなどから、懲戒解雇相当であるが、Yの将来にも配慮して諭旨解雇とすることに決定した。

▼ X社は同年11月、Yを諭旨解雇する旨の通知を内容証明郵便で送付したが、提出期限までにYから退職届が提出されなかったため、同社はYに対し、改めて懲戒解雇(以下「本件解雇」という)する旨を内容証明郵便で通知した。

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