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#131 「東急エージェンシー事件」東京地裁

2006年4月5日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第131号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【東急エージェンシー(以下、T社)事件・東京地裁判決】(2005年7月25日)

▽ <主な争点>
諭旨解雇相当事由の存在による退職金の減額/年休の残日数の買い上げ

1.事件の概要は?

本件は、希望退職優遇制度の適用を一旦は承認されていたXが諭旨解雇に相当する事由があるとして、T社から同制度の適用を解除されると同時に、退職金支給規程に定められている退職金減額規定の適用によって、退職金を自己都合退職の場合に支給される額の2分の1に減額して支払われたために、上記制度の適用解除は無効であるとして、通常退職金の不足分(675万円余)と退職特別加算金(1700万円)の支払い、および年次有給休暇(以下「年休」という)残日数の買い上げ分の金員(81万円余)の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<T社およびXについて>

★ T社は、各種広告の代理業務を業とする会社である。

★ Xは昭和58年4月、T社に雇用されて以来、営業に従事し、平成10年10月から15年3月までは営業部長として、15年4月以降は媒体本部メディア営業部メディアディレクターとして勤務していた。

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<本件ビデオ等について>

▼ Xは平成12年頃、テレビ放送のスポットCMを受注していたA美容形成外科(以下、A美容)の宣伝部長であるBより、C社が制作する、年に2本程度のプロモーション用ビデオ(以下「本件ビデオ」という)の制作費をT社において負担してもらえないかとの話を持ちかけられた。

▼ そこで、Xはクライアントサービスとしてこれに応じることとし、本件ビデオの制作費については、T社と取引関係にあるD社を介してC社に支払い、D社には1割のマージンを支払うことにし、結局T社は12年11月から14年11月までの間、計5回にわたって、本件ビデオ制作費として合計1097万円余を支払った。

▼ ところが、本件ビデオは実際には制作されておらず、D社を介してT社に請求された本件ビデオの制作費は架空のものであった。

★ T社のA美容との広告宣伝に関する取引は、12年度の売上高が約3億8000万円(利益約5000万円)であったのに対して、14年度には売上高が約9億円(利益約1億2000万円)に増加した。

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<本件諭旨解雇等について>

▼ T社は希望退職優遇制度を適用した希望退職の募集を行い、Xはこれに応じて、15年8月中旬、退職日を同年9月末日とする希望退職届を提出した。

▼ この申し出につき、T社は同年8月下旬、Xに対し、希望退職優遇制度の適用を決定し、退職日を同年9月末日とする旨を通知して、通常退職金1364万5000円、退職特別加算金1700万円との試算を示した。

▼ ところが、T社はXに対し、Xを15年10月24日付で諭旨解雇の懲戒処分に付し(以下「本件諭旨解雇」という)、希望退職優遇制度の適用除外および通常退職金を2分の1減額する旨を通知し、退職金として689万円余を支払った。

★ T社が理由とするXの諭旨解雇事由は、「(a)Xは本件ビデオの制作費につき、上長の裁可を得ずにその制作費を負担することにした上、本件ビデオが実際には制作されておらず、D社を介してT社に請求された本件ビデオ制作費の請求が架空のものであることを知りながらT社にその支払いをさせ、同社に1000万円を超える損害を与えた。(b)Xの上記の行為は、T社の発注取引管理規程に違反し、就業規則の懲戒解雇事由に該当するものであり、本来は懲戒解雇に該当するが、営業行為であったことを勘案して諭旨解雇に処する」とされていた。

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<T社の就業規則等について>

★ T社の就業規則には、次のとおりの規定がある。

第88条 会社は、従業員が次の各号の一に該当する行為をしたときは懲戒解雇する。ただし、情状によっては諭旨解雇、降職または停職にとどめることがある。

(14) 故意または不注意によって、会社に多大な損害を与えたとき
(16) 業務の内外を問わず、会社の信用を害し、または体面を汚す行為のあったとき
(20) 会社の諸規定、令達または指示に違反し、情状悪質なとき

★ T社の退職金支給規程には、「諭旨解雇となった者の退職金については、自己都合退職の場合の支給乗率によって計算された退職金額の5割の範囲内で支給することができる」とされている。

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