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#361 「アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー事件」東京地裁(再々掲)

2014年5月21日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第361号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー(以下、A社)事件・東京地裁判決】(2012年1月13日)

▽ <主な争点>
競業避止義務を定める合意と退職金の支給など

1.事件の概要は?

Xは平成17年3月、A社との間で賃金、賞与および退職金に関する合意をし、同月、退職金に関して追加の合意(毎年、業績賞与と同額を退職金として積み立てて後にこれを退職金として支払う)をし、この退職金合意と同時に競業避止義務が定められ、この競業避止条項に反した場合には退職金全額を不支給とすることも定められていた。

21年5月、XはA社に対し、同年6月30日をもって退社することを通知したところ、同社はXに対し、退職金の額とともに退社後2年以内の雇用先が競合他社に該当しないこと等を満たしたときに退職金を支払う旨を通知した。

XがA社を自己都合退職し、同年7月1日付でM社(生命保険会社)の取締役執行役員副社長となったところ、A社は同月14日付でXに対し、退職金を支払わない旨を通知した(その後、Xは22年6月30日付でM社を退社した)。

本件は、XがA社に対し、退職金支払合意に基づく退職金3037万円余および遅延損害金の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<A社およびXについて>

★ A社は、日本において保険業を行う外国保険業者であり、日本に支店となるアリコジャパンを置いている。同社はX在職当時、アメリカンインターナショナルグループ(AIG)に属していた。

★ Xは、平成11年11月からAIGグループのアメリカンインターナショナルグループ株式会社(AIG社)において勤務し、15年9月、A社に出向した者である。その後、Xは16年7月、AIG社からA社に籍を転じ、A社日本支店の金融法人本部の本部長と執行役員を兼務するようになったが、業務内容は従前と同じバンクアシュアランス業務を担当していた。

★ 「バンクアシュアランス業務」においては、銀行や証券会社等の提携金融機関の窓口において、提携金融機関の職員が保険商品の販売を行うこととなり、A社は販売方法や商品の研修を行ったり、質問に回答したりする等の活動を行うものである。

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<退職金に関する合意等について>

▼ Xは17年3月、A社との間で賃金、賞与および退職金に関する合意をし、同月、退職金に関して追加の合意をした。これらの合意によると(1)賃金月額は131万7000円(別途会社負担の社宅家賃月額24万円あり)、(2)業績賞与として毎年、月額給与6ヵ月分を限度に支給、(3)毎年、業績賞与と同額を退職金として積み立て、後にこれを退職金として支払うものとされていた(以下「本件退職金合意」という)。

★ 本件退職金合意と同時に競業避止義務が定められ(以下「本件競業避止条項」という)、本件競業避止条項に反した場合には退職金全額を不支給とすることも定められた(以下「本件不支給条項」という)。

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<Xの退社、本件転職等について>

▼ Xは21年5月、A社に対し、同年6月30日をもって退社することを通知したところ、同社は同月10日付でXに対し、退職金の額とともに退社後2年以内の雇用先が競合他社に該当しないこと等を満たしたときに退職金を支払う旨を通知した。

▼ Xは同年6月30日、A社を自己都合で退社し、翌7月1日付でM社の取締役執行役員副社長となった(以下「本件転職」という)。これに対し、A社は同月14日付でXに退職金を支払わない旨を通知した。その後、Xは22年6月30日付でM社を退社した。

3.元社員Xの主な言い分は?

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