さて、刑法で面白い判決が出ましたので、見ていきましょう。
はい、いわゆるオレオレ詐欺の事案ですね。
この事案では、キャッシュカードの窃盗未遂が問題になっています。
余談ですが、詐欺罪と窃盗罪の違いは何だったでしょうか?
被害者の意思に基づく交付が詐欺罪で
被害者の意思に基づかない占有の奪取が窃盗罪でしたね。
警察の尾行に気づいて被害者宅の近くで犯行を諦めたという事例です。
弁護人の主張です。
窃盗の着手時期は、少なくとも被害者に印鑑を取りに行かせる行為を行った時点と主張しているようです。
法益侵害の現実的危険がいつ惹起されたか
窃盗の着手時期が問題となっています。
最近は詐欺の手口も巧妙化していますので
色々なパターンがあります。
被害者宅まで約140mという点がポイントですので覚えておきましょう。
本件では、欺罔行為を行い金銭を交付させるのではなく
キャッシュカードを窃取するという計画でした。
はい、ここがポイントです。
皆さんご承知の通り、窃盗の着手が認められるためには
法益侵害の具体的危険性が惹起されたと評価される必要があります。
ですので、その検討に当たっては
どのような物を、どのように窃取する予定であったかが問題となるのでした。
例えば、誰もいない深夜のスーパーでレジの方向に向かった時点で窃盗の着手を認めた判決がありましたね。
これは、その時点で既に占有侵奪の具体的危険性があるので窃盗の着手が認められたわけです。
今回の判決では、嘘が積み重ねられていることが重視されています。
つまり、キャッシュカードを窃取するために、
詐欺被害にあっているという嘘
被害金を返金するという嘘
それにはキャッシュカードが必要という嘘
金融庁の職員が家に向かっているという嘘
口座を凍結するという嘘
封筒にキャッシュカードを入れてもらい、職員が確認するという嘘
確認後、キャッシュカードは返すが3日間お金の引き出しはできませんという嘘
が積み重ねられているのです。
これらの嘘が既に告知されている以上、
被告人が被害社宅まで赴いた時点で、
既に法益侵害の具体的危険性が発生しており
窃盗の着手が認められるという結論です。
窃盗の着手のみならず、詐欺と窃盗の区別の理解を問うこともできますので
司法試験の問題に出されても全くおかしくありません。
司法試験で問題として出される場合は、必ず上記の事例とは異なる事例で出されます。
ですので、単純な事前の嘘の告知等がない窃盗罪(単なる空き巣など)では、
家の近くまで行っただけでは窃盗の着手が認められない可能性が高いですので注意して下さい。