司法試験・現場思考の解説
さて、司法試験で問われる現場思考の方法について
令和3年の憲法、刑法、刑訴の問題を題材に解説しましたので
もし興味があればチェックしてみてください。
この解説の内容を実践すれば、予備試験や司法試験で問われる「現場思考」というものがどういうものか、ある程度クリアに分かるようになると思います。
もちろん問題にもよりますが、法学部の試験、ロースクールの試験、予備試験、司法試験でも出題者の意図をどのようにつかめばよいかが分かるようになるでしょう。
ここだけの話、私は、一度司法試験に不合格になりました。
自分は実力があると思っていた刑事系が3500位で不合格だったあの日のことは忘れられません。
法務省の合格発表の掲示板から逃げるように立ち去り、寒空の中、絶望して日比谷公園のベンチで数時間動くことができませんでした。まさに、ボロボロでした。
それが、一年後の司法試験では、刑事系科目で150位を取り、司法試験にパスすることができました。
これだけ一年間の勉強で成績を伸ばすことができた秘訣をお話したいと思います。
ご購入頂き本当にありがとうございます。
まず、令和3年の憲法です。
少しずつ問題文を引用していきますので
どんな風に現場思考を行ったら良いのか
問題文を見ながら解説していきます。
まず注意点ですが、このように憲法の問題ではリアルな問題設定がされており、あたかも本当にあった事実のように感じるのですが
実際には、この事実は一つ一つが作られた事実にすぎず
一つ一つの設定は、あえて司法試験委員会の方々が作ったものである
ということを確認してください。
そして、現場思考で行うべきなのは、この問題文を見て
表現の自由に関連する知識を頭の中から引っ張ってくることではありません。
そうではなくて、なぜ、出題者は、このような設定にしたのか
それを考えることです。
例えば、「いくつかの団体」という設定がなされており
一つの団体の話をしているわけではありません。
これは、なぜでしょうか?
それは、特定の団体に対する措置法のような論点は書かなくてよい
というメッセージです。
そして、それぞれ「異なる政治的主張」というのも上記と同じで特定の団体に対する規制ではないという示唆です。
また、顔を隠す、旗を振り回す、紙を燃やすなど
結構過激なデモという設定にしていますね。
これは、なぜだろう?
というように、一つ一つの設定に疑問を持つことが重要です。
なぜ、平穏なデモという設定にしなかったのでしょうか。
これは、平穏デモですと違憲の疑いが強くなりますので
合憲という結論を導くことも可能となるような事実として
設定がなされています。
はい、SNSでも配信を行っていたということの意味は
どんな意味があるのでしょうか。
例えば、これまで出版等が事実困難であった若年層にも自らの意見を一般社会に問いかけることを可能にしたSNSは、特に表現の自由を実質化するために重要であるという評価ができるかもしれません。
私もこれまで何百通と答案を見てきましたが、
採点官は、このようなその場で考えた評価が出てくると、そういう答案には高得点をつけたくなります。
はい、ここも重要ですよね。
「顔を隠すこと自体に特定のメッセージを込めていなかった」
ということは、それを規制することは、内容規制ではない
ということになりそうです。
すなわち、表現行為の方法の規制である内容中立規制という
評価もできそうです。
また、「デモの報道で顔が映る心配がない」
「就職活動や職場のことを気にせずデモに参加できる。」
という意見が問題文に記載されている理由は何故でしょうか。
ここは、デモをする人は顔を晒せとか、就職活動や職場を
気にしながらデモに参加しろ
などと言うことができるのかという問題です。
表現の自由の重要性に鑑みれば、そんな表現方法への制約を
課すことはできませんよね。
そのような話も答案に書ければ◎です。
憲法では人権の選択が非常に大切で
ここで勝負が決まってしまうことがありますが
この問題ではどうでしょうか。
出題者は、顔を隠したデモ参加者が、ショーウィンドウの破壊やゴミ箱への放火を行い、警察官を負傷させるという事態が起こったという設定にしました。
出題者がこのような設定にした意味はなぜでしょうか?
それは、規制がこれから出てきますので、その規制を行う理由
つまり、立法目的の説明を行っている部分ですね。
憲法では、一方的な、「当然合憲っしょ」というような答案は
あまり好かれません。
読んでいて面白い、反対利益にも配慮している答案の方が
評価が高くなります。
ここでは、顔を隠すことで、犯罪を行っても逮捕されない可能性が高まり
そのような可能性の高まりが心理的に違法行為を助長している、
という評価もできるでしょう。
このような、現場で考えた感を答案全体の随所に仕掛けていくことが
高得点を取るポイントです。
「よく考えているなあ」というポイントが何個も出てきたら
それは、採点官も悪い点は付けられません。
はい、この事実の設定はどうでしょうか。
最初は、政治的な思想をもってデモを行っていた各団体でしたが
暴力的な行為を行ったのは、そのような暴力的な行為を
憂さ晴らし的に行いたい人間がデモに参加していたということです。
ここだけ見れば、そもそもそのような人間のデモは
政治的表現の自由で保護されるのか、疑問が出てくるところでもあります。
また、その場の雰囲気に流され、という設定も出てきましたね。
これは、デモが暴徒化するという危険性を示唆するものですので
このような設定も反対利益として必ず拾いましょう。
これは、出題者からのヒントです。
この点は、暴力的な行為を行う者の特定が困難であること、
実際に暴力的な行為を行っても逮捕されていない人がいるということで
規制の必要性を裏付ける事実となります。
実際、ショーウィンドウを壊したり放火したりする人が
逮捕もされずウロウロしていたら、ちょっとまずいですよね。
このような規制を正当化する反対利益についても
憲法の問題では必ず出てきますので
反対利益には配慮していくことが高得点を取るには必須となります。
「当然意見っしょー」
「当然合憲っしょー」
という答案では、いずれも高得点は取れません。
「反対利益がある、確かにそうとも言える、悩む、悩む、
悩むけど、○○なので、合憲(違憲)だと私は思う!」
というニュアンスで書いていくことが大切です。
憲法に限らず、司法試験で一番大切なことは何だと思いますか?
それは、自分の頭の中から類似の論点を引っ張り出すのではなく
問題の設定から、出題者が何を受験生に考えて欲しくて
この問題を出したのか考えるということです。
これが、司法試験で必要な現場思考です。
ですが、これって実は結構難しいんですよね。
頭では分かっていても
実際に、一年に一回しかない本試験の現場では
誰も知らない問題が出てきますので
「これは何だっけ、これは何だっけ、これは何だっけ・・」
と焦って自分の記憶から答えを探そうとして
全然、問題の事実をよく見ておらず
全く関係のない解答をしてしまう
そして、不合格となる。
こういう方が毎年続出します。
これを読んでいる貴方も、日頃から意識して訓練をしていないと
そうなってしまう可能性が高いです。
そうならないようにするためには、毎日、現場思考の訓練をするのが良いです。
例えば、現場思考の具体的な手順をA4一枚にまとめる。
そして、それを毎日見返してから、答案を書く。
そして、自分の考える現場思考ができたか、見直しましょう。
ここまでして初めて、本試験の緊張状態でも現場思考ができるように
なるのです。
はい、お待ちかねの規制内容が出てきました。
規制①は、顔を隠して集団行進に参加することを禁止するという内容です。
規制としては、例えば、顔を隠して集団行進することを
届出制にするということも考えられますよね?
そうではなくて、一律禁止というのは、結構ハードな規制です。
このように、他のありえる設定から考えていけば
違憲方向で考えて欲しいのでこのような設定にしているのかな、と
出題者の求めている方向性が推測できてきます。
次の規制は結構変わった規制ですね。
ゆっくり問題文を読めば、色々気になる点が出てくると思います。
例えば、顔を隠して行進するという点は、こちらの規制では消えてしまいました。
また、さらに言えば、この規制は観察対象の指定と、政治的表現に使用する方法について報告を義務付けるというものですが
自らの政治的表現の内容等、全てについて報告を求めているわけではありません。
そのため、規制手段としては一見弱いとも言えそうですが
表現の媒体について報告するということは、その内容についても
当然当局に監視されるということですから、
非常に強い萎縮効果を生む規制とも言えます。
実際、これを見ている方は学生や社会人が多いと思いますが
大学や会社から
「君がやっているSNSアカウントを全て定期的に報告してください」
と言われたら、非常に嫌ですよね。笑
このように素朴に考えて、
自分が考えたことを臆せず答案に書いていくことが必要であり、
司法試験では、そのような「この人はこの部分は自分で考えたのだな」
と採点官が分かる答案が、
いわゆる金太郎飴答案ではないとして、高く評価されます。
はい、法律案の骨子について、議員から相談を受けたという設定です。
このようなやり取りがある場合、やり取りは重要なヒントになりますので
丁寧に読んでいく必要があります。
法律家であるという甲の発言です。規制が広範すぎるのではないかという指摘がありますので、この視点は当然もっておく必要があります。
議員の発言です。この発言は、規制を加える側としては、この規制は表現の内容の規制ではなくて、表現方法の規制、すなわち内容中立規制であると考えているということです。
でも、これは本当にそうか、鵜呑みにしないことが大切です。
匿名性が生み出す犯罪の助長が指摘されています。
これも、そのまま答案に書いていく必要がある反対利益ですね。
間違っても完全無視はダメです。
無視すると、出題者は「この人は問題読んでるのか!?」と
怒ってしまうでしょう。
それでは良い点はつきません。
さて、「団体の規制に関する既存の立法と比べると,対象となる団体の危険性はさほど大きくないように思います」という指摘が出てきました。
いつも言っていることですが
出題者は、このような指摘をなぜしたのか、考えていく必要があります。
別に、こんな記載はなくても問題としては成立しますよね?
それにも関わらずこういう問題にしているのは、
他の団体の記載に関する既存立法と比べて検討して欲しいからです。
ここまで言われているのに無視してはいけません。笑
もちろん、既存立法を知らないからといって無視してもいけません。
一番出てきやすのは、おそらくオウム真理教に適用された
破壊活動防止法ですよね。
これを現場で六法を引いて内容を確認し、
一言でもこの規制案と比較できれば、高得点が付きます。
ここでも、最初の思考の出発点は、「なぜ出題者は既存立法について指摘しているのだろう?」という疑問点です。
「時間がない」「時間がない」と焦ってサーっと問題文を読んでしまうと
この問題点に気づくことはできませんので
最初に問題文を読む時は、ゆっくり読むことを意識してください。
「何でこんな設定にしたのかな」と疑問を持ちながら読まないと
出題者が考えて欲しいことに気づくことはできません。
構成員の範囲の確定がそもそも可能かという指摘がありました。
ここは、明確性原則については書くなと指示がありますので
規制態様として広すぎず、合憲方向の事実となります。
注意して頂きたいのは、あてはめでより制限的でない規制の話をする場合に
この問題であれば構成員の50パーセント以上などという
数字だけをいじる受験生がいますが
それだけでは説得力がありません。
他のありえる規制を出せるように、よくある規制の種類は事前にチェックしておきましょう。
ここも、議員から媒体の名称のみで、中身の規制ではないという趣旨の発言がなされています。
ここも、内容規制ではなく、内容中立規制であるという雰囲気を出してくるわけですが
実際には、内容中立規制であっても萎縮効果が大きい場合には表現の内容を規制するのと同じ効果を引き起こす場合がありますので
この点を意識して
確かに【媒体だけで内容中立規制とも思える】
しかし【実際は内容規制と同じ萎縮効果を引き起こすものであるので厳格な基準で審査すべき】
というような流れで使っていけばよいでしょう。
また、問題文にはA2庁から公安委員会に対して使用媒体の情報の共有を行うとも記載されていますので
公安委員会からブログ、ツイッター等を全てチェックされることになり
強度な規制であると評価できるでしょう。
これらの、出題者のヒントを全て拾っていくことが大切です。
このようなヒントが、問題文と出題の趣旨を繋ぐキーポイントになります。
ここでは、誰でも見ることができるという点を出題者は強調しています。
ここまで強調している理由は何か、考える必要があります。
それは、自ら公開している情報なのだから、それを確認されても問題ないだろう、という発想です。
一見もっともらしいこの反論をどのように叩くかが腕の見せ所です。
前の文でもそうですが、かなりプライバシー寄りの話になっていますので、
ここら辺で、政治結社のプライバシーという問題の所在に気づけると良いです。
規制案では、名義のいかんを問わず、団体の活動として行っているものを報告する必要があるという内容になっています。
そのため、代表者や構成員等の個人アカウントについても報告を義務付けていることを指摘しています。
この記載も、なくても問題としては成立しますよね。
それにもかかわらず書いてくれているのは、出題者のヒントですので
必ず拾っていきましょう。
一昔前に比べて、憲法の問題は大分ヒントをくれるようになりました。
はい、手続保障については書くなという指令ですので
この文章を読んだ後は1秒たりともこの点について考えてはいけません。
無駄なことを考えている時間はないです。
さて、設問は何かと言いますと。
という問題です。
問題の問われ方は非常に重要ですので、サラッと読まないでください。
一文目の規制①及び②の合憲性については問題ありませんね。
その後のなお書きですが、司法試験の問題ではなお書きに重要なことが書いてあることが多いですのでよく読みます。
この記載は、仮にあなたが違憲という立場を取るとしても、反対利益である合憲の根拠となる点についても論じて下さいという意味です。
これまで見てきたように、この問題では、むしろ合憲を裏付ける要素が沢山沢山出てきました。
これを無視してしまってはいけません。
それでは、出題者は「この人は問題文読んでんの!?」となってしまいます。笑
そして、その次には
という指示があります。
このような、論じるなという記載にも注意してください。
論じるなということは、答案に書いては点にならないのはもちろん
いくらこの点を考えても点にならないということです。
司法試験では、不要なことをしている時間はありません。
不要なことをすればするほど、不合格が近づいてきます。
この点はいま一度注意です。
添付資料に行きましょう。
まず、法律の目的が書いてあります。
この目的から見当外れな場合は少ないですが、念の為よく読んでおく必要があります。答案では合憲の立場を裏付ける根拠として使いましょう。
明確性の原則について見当したくなる気持ちは分かりますが、
回答しなくてよいとのことですので無駄なことは考えてはいけません。
ここでは、構成員のうち10%を超える者が公共の安全を害する行為を行い、
刑に処せられた者である団体が対象となるという設定です。
この設定の意味を考える必要があります。
例えば、場合よっては、委員会が公共の安全を害すると指定した団体、というような裁量の大きい法律としても良かったはずです。
そうではなくて、10%以上が刑に処せられた者である団体という客観的な指標を設けている意味を考えるのです。
これは、行政機関の裁量を狭めているわけですから、
合憲方向の事実となります。
間違っても10%だから多いとか、少ないとかという
水掛け論を答案に書かないでください。
説得力が一気になくなってしまいます。
ここも詳しく見ていく必要があります。
まず、1項では1年を超えない期間という設定ですので
期間的な限定はなされており、これは合憲方向と評価できます。
2項では、1ヶ月ごとの報告が義務付けられています。
ここでも、出題者は2ヶ月や3ヶ月と設定しても良かったはずです。
それにも関わらず1ヶ月としている理由を考える必要があります。
これは、期間が短く、毎月使っているSNSの報告が必要となりますので、事実上の内容規制と評価することができますので、違憲方向の事実となります。
3項では、情報を公安委員会を共有するとのことですので、これも当然違憲方向です。
4項は50万円という過料を定めており、結構大きい金額ですよね。
ここも出題者は20万円や30万円ではなく50万円と設定しているわけですから、
必ず答案で拾って評価してください。
以上見てきた通り、司法試験では、最初に問題を読んだ時のファーストインプレッションが本当に大切です。
ですので、絶対に焦って読まないようにしてください。
例えば、ピンク色等の目立つ色で、問題文に「?」マークを付けながら読むと良いでしょう。
そして、自分が付けた「?」マークを全て使えているか
最後にチェックすれば、事実の使い忘れを排除することができます。
このような小さな工夫の積み重ねが、最後は合否を分けることになります。
ここから先は
¥ 5,000
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?