元カレが多すぎる 第2話

<2話>

会社の事務所(1話の2日後)。午前。
席に着き、パソコンに向かう夏乃だが、その夏乃を見る周囲の目が違う。
居心地の悪い夏乃。
n「最近、周囲の視線が痛い」
n「その理由は――」

不破が現れ、主人公に仕事の指示をする。
不破「午後のプレゼン用の資料、五部印刷しといてくれ」
夏乃「は、はい」
そして流し目で付け加える。
不破「……俺の命令は絶対だから」(大ゴマで、少女漫画風に)

夏乃(最後のいる??)
夏乃(上司だから命令聞くのは普通では??)
n「職場の鬼上司がなぜか元カレ(俺サマ系)になったから」
同僚の春日井に決定的現場を見られた翌日から、瞬く間に噂は広がった。
(春日井が主人公と不破の様子を遠巻きに見ている)
夏乃(本当に意味わかんないんだけど!?)

――回想。
夏乃は経緯を振り返る。
恋守神社で手を合わせる夏乃。
n「怪しい神社で彼氏が欲しい(けど怖い)とお願いしたところ――」
光に包まれる夏乃。
n「男の人を問答無用で「元カレ」にする力を手に入れてしまった」
――回想終わり。

n「調べてみたところ、元カレ化の要件はこんな感じ」
n「①目を合わせることで発動
  ②女性、あるいは身近な家族には無効
  ③付き合っていた記憶は相手にだけあって私にはない」
(調べてみているフラッシュカット例:
 下校中の小学生に「あのときはお互い若かったよね」
 通勤中のおじさんに「髪、切ったんだ」
 主人公はそのたび「なんのこと!?」「は!?」という感じで戸惑っている)
n「それともう一つあるんだけど……」

夏乃はネットで世界の男性の人口を検索する。
すると、出てきたのは約「40億」。
夏乃(40億人が私の元カレに……??)
夏乃(一度も付き合ったことないのに……??)
頭を抱える。

※ブルゾンちえみのときは35億で、そのときより増えている。

同僚の佐伯が現れる。主人公の隣の席。
頭を抱える夏乃を見て、
佐伯「なんだ? 困りごとか?」
夏乃「あ、佐伯くん……」
n「佐伯 爽太。27歳。独身。
  会社の同期で、営業のエース。
  夏乃が唯一気負わず話せる相手」
↑プロフィールを表示。

佐伯「何かあれば言えよ。最後まで生き残った貴重な同期なんだからな」
佐伯、肘で夏乃の肩あたりをちょん、とやり、爽やかにニッと笑う。

夏乃(佐伯くん……相変わらずいい人……)
夏乃、ぐすっと泣けてくる。佐伯が神のように見える。
夏乃(私たち、修羅場を超えてきた戦友だもんね……!)
(戦友のフラッシュカット例:
 大型の契約をとって、拳をぶつけあう主人公と佐伯。
 たくさんいた同期が会社を去っていくのを淋しそうに見送る主人公と佐伯。
 居酒屋へ行って上司の愚痴を言いあう主人公と佐伯。
 青春風、いい感じ風に)

※新卒の同期は10人いたが、激務でみんな辞めていく中、二人は最後まで残った。
※夏乃はいつの間にか彼の魅力にひかれていたが、戦友としての意識が強いし、
 自分なんかが付き合えるわけがないと思っているので、意識することをやめていた。

夏乃(だからこそ、佐伯くんとの関係だけは失いたくない!)
夏乃、顔を上げ、決意する。

● ● ●

時間経過。事務所。
佐伯「飯星、明日の打合せさ――」
夏乃「っ!」
夏乃、必死に視線を背け、佐伯と目を合わせないようにする。

時間経過。事務所。
佐伯「なぁ飯星――」
夏乃「ああっ! ボールペンが!」
わざと物を落としたり。

時間経過。事務所。
佐伯「飯ぼ――」
夏乃「こわいよね緑内障……」
サッと室内でサングラスをかけたりする。
さすがに不審がる佐伯。
佐伯「……」

● ● ●

事務所。
なんとか佐伯と視線を合わせないまま午前中を過ごした夏乃。
休み時間になり、自席で食事をする夏乃。手作りの弁当を食べる。
夏乃(はぁ……なんとか午前中はやりすごせた)
すると、コンビニで弁当を買ってきた佐伯が戻ってくる。
自席にコンビニ袋に入った弁当を置くと、つかつかと夏乃のもとへ。
佐伯「おい」
夏乃「え?」
佐伯「ちゃんと俺を見ろ」
佐伯、ムッとしながら両手で夏乃の顔をはさんで、ぐいっと自分の方に振り向け、強引に至近距離で顔を見合わせる。
夏乃「……っ!?」
夏乃、驚きと、至近距離で佐伯の顔を見た恥ずかしさで真っ赤になる。

佐伯「なんで俺を避けてんだ? 何かあれば言って――」
夏乃(まずっ……!)
佐伯と目が合ってしまった。
このままでは佐伯も元カレに――と思ったが。

佐伯「どうした? 俺の顔に何かついてるか?」
夏乃「え?」

佐伯の様子に変化はない。
夏乃(元カレ化……してない?)

すると、横から不破が現れ、夏乃の弁当箱の中身を見て言う。
不破「「夏乃、しいたけ食えるようになったのか?」
夏乃「ぶ、部長!?」
夏乃(ていうか、な、なな夏乃!?)
夏乃(そんなの、両親とオタ友にしか呼ばれたことないのに!)
普段は「飯星」と呼ぶのに「夏乃」呼ばわりされ、ドキッとする夏乃。

一方、佐伯はけげんな顔。
佐伯「夏乃って……」
普段は「飯星」と呼ぶはずの部長が名前を呼び捨てにしていることに疑問を持つ。
佐伯「それに、しいたけ食えるようになったのかって……」
佐伯「いつの間にそんなに親密に?」

夏乃(あー……まずい! 変な風に思われる!)
夏乃(佐伯くんとの関係だけは失いたくないのに!)
夏乃、ひとりで頭を抱える。

夏乃(でも……どうして佐伯くんには効果がなかったんだろ?)

夏乃がそんなことを考えている間にも、不破は迫ってくる。
不破「なぁ夏乃、今日の会社終わりなんだけど」
不破、夏乃の耳元でささやくように。
夏乃「っ!?」
夏乃、距離の近すぎる佐伯にどぎまぎする。

n「そうだ。思い出した。もう一つの元カレ化の要件――」

佐伯「久しぶりにウチ寄ってくけよ」
夏乃(それは、なぜか揃いも揃ってヨリを戻そうとしてくること!)

佐伯「ウチって……」
佐伯、二人のただならぬ関係を察して戸惑いの顔。

夏乃「ち、違うの佐伯くん! これは誤解で……!」
夏乃(でも、どう説明すればいいの!?)
夏乃(ある日世界中の男が元カレになったのなんて言ったら頭おかしいやつと思われちゃう~!)

不破は迫ってくるし、佐伯は誤解させるし、どうしたらいいか困っていると。

――ドン!

大量の書類が夏乃の机に乱暴に置かれる。

春日井「これ。ファイルしといてもらえます?」
同僚の春日井だった。
ギラギラと剣呑な目をし、敵意まんまんの表情。
春日井は不破狙いだったので、不破の注意を集める夏乃にいらだっていた。
しかし、夏乃にとっては好都合。

夏乃「あ、うん! やるやる! 今からすぐやる!」

夏乃、そう言って、不破と佐伯のもとをそそくさと離れる。

夏乃(ひとまず逃げられた……ありがとう春日井さん)

けれど。
まだまだ諦めない不破。けげんな顔のままの佐伯。夏乃をにらみつける春日井。
夏乃(これからどうしよう~!)
すっかり変わってしまった社内の人間関係に頭を抱える夏乃だった。

● ● ●

その日の夕方。恋守神社。
夏乃、また賽銭箱の前で手を合わせ。
夏乃(神様! なんか変な感じになってます!)
夏乃(もし神様の仕業だったらやめてもらえませんか!)

シーン。当然、何も反応はない。

夏乃「……」
夏乃「やむをえん!」
夏乃、覚悟を決めて、財布を全開。そして中身を全部賽銭箱にぶちまける。

すると、脳内に何者かの声が響く。

恋守御神「まいどあり」
夏乃(まいどあり??)

それは夏乃にだけ聞こえる声。
周囲は時が止まったように、夏乃と謎の声だけで会話する。

恋守御神「我は恋守大神<こいもりのおおかみ>」
夏乃(……まさか恋守神社の御祭神さま?)
恋守御神「いかにも。『元カレ』云々の話か?」
夏乃(そ、そうです! さすがお話が早い!)
夏乃(あれ、キャンセルできませんか?)
夏乃(自分からお願いしておいてなんですけど、ちょっと予想外の感じで……)
恋守御神「それはぬしの努力次第じゃ」
夏乃(え?)
恋守御神「そもそもぬしは番う相手を願った」
恋守御神「故、それが叶えば一連の異変は収まろう」
夏乃(つまり……か、彼氏を作ればいいってことですか?)
恋守御神「いかにも。心からの想い人と結ばれれば叶う」
夏乃(心からの……つまり本命の相手?)
夏乃「って、そんな人、いまいないんですけど……」
恋守御神「否。探してみよ」
恋守御神「異変の及ばぬ者……それがぬしの想い人」

夏乃「それって……」
思い浮かぶのは、佐伯の顔。
佐伯だけは目が合っても元カレ化しなかった。

夏乃「佐伯くんのことですか……?」
佐伯のことは戦友だと思っている。
が、事実はそう思うことで恋心をごまかしているだけだった。
夏乃の恋愛に対する弱気な姿勢がそうさせていた。

夏乃「神様……? あれ、神様?」
もう神様の声は聞こえなかった。

また財布の中身をぶちまければと考えたが、そんな財力もない。
解決方法はわかったが。

夏乃「どうしたらいいの~!?」
夏乃、その場にうずくまり、うめき声をあげることしかできなかった。

2話終わり

#創作大賞2024 #漫画原作部門 #少女マンガ #ラブコメ

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