笑うかいじゅうと泣くかいじゅう、それから。

笑ウかいじゅう

名をガティアと云います
種族はかいじゅうです
でも自らをヒトと信じたまま
大人になりました

当たり前のことが
蜘蛛の糸みたいに
張り巡らされてるこんな世界を
嘲笑しています

奴が「右を向け」って言った
みんな右を向いて命令を待ってる
彼はhi-liteに火をつけて
ゲーセンに向かいます

ただしいひとが石を投げりゃ
彼はコンクリ片で
そいつの頭をカチ割るんです
ニヤリと嗤い

笑うかいじゅう ガティアくんです

名をガティアと云います
思考が大好きです
彼の脳ミソは常にフル回転
休まることがない

当たり前のことを
疑えない人を
「神の言うとおり」なこんな世界を
嘲笑しています

奴が「銃をとれ」って言った
みんな戸惑い誰か動くのを待ってる
彼は火炎瓶を投げつけて
弟の家に行く

ただしいひとが罵声を吐きゃ
彼は論理を武器に
そいつの頭をカチ割るんです
ニヤリと嗤い

笑うかいじゅうの最愛の人は
弟のかいじゅうです
名をナスィクと云います
泣くかいじゅうです

笑うかいじゅうは泣くかいじゅうの
震える手をとりました
「もうそろそろ俺たち、潮時だよな」

ただしいひとに見つからぬ様
ふたりのかいじゅうたちは
社会の端っこで抱き合います、柔らかく笑い

ただしいひとが見つけた時は
ふたりのかいじゅうたちが
かいじゅうだったことなどはもはや
誰も知りません

笑うかいじゅう ガティアくんの
頬に微か、涙のあと
泣くかいじゅう ナスィクくんの
眠る顔は笑顔でした

哭クかいじゅう

名をナスィクと云います
種族はかいじゅうです
でも自らをヒトと信じたまま
大人になりました

当たり前のことが
蜘蛛の糸みたいに
彼を縛り付けるから自由には
生きられないんです

右手を上げようとしても
左手が持ち上がって
西へと向かおうとしても
東に足が向く

ただしいひとになりたくて
疑うことをやめたくて
それでも脳ミソは回るのを止めない
「どうして?」って考えちゃう

泣くかいじゅう ナスィクくんです

名をナスィクと云います
傷つきやすい子です
でもつらい顔を見せてしまったら
また殴られちゃうし

当たり前のことを
正義と思えたら
彼を縛り付ける糸など
気にせず済むんです

「違う」と言おうとしても
首を縦に振っちゃって
「そうだ」と言おうとしても
口を閉ざしてしまう

ただしいひとになれなくて
ただしいひとってなんだろうな
いつでも脳ミソは回るのを止めない
「どうして?」って考えちゃう

泣くかいじゅうの最愛の人は
兄のかいじゅうです
名をガティアと云います
笑うかいじゅうです

笑うかいじゅうに手を握られて
泣くかいじゅうは
「そうだね」って答えた
「俺も思ってた」

ただしいひとになれなくて
いっぱいいっぱい悲しくて
だけどそうだ、これは絶望ではない
嬉しくて少し泣いた

ただしいひとが彼らを見つけ
ワイドショーが賑わって
「今、社会に何が起きているのか」って
一過性の熱病です

泣くかいじゅう、ナスィクくんの
眠る顔は笑顔でした
笑うかいじゅう、ガティアくんの
頬に微か、涙のあと

うたうかいじゅう

名を××と云います
種族はかいじゅうです
でも自らをヒトと信じたまま
大人になりました

当たり前のことが
蜘蛛の糸みたいに
張り巡らされてるこんな世界で
ただ歌っています

ねぇ
その網膜にはどんな景色がうつる?
その鼓膜にはどんな音が響くの?
かいじゅうさん かいじゅうさん
美しいかいじゅうさん
君の世界にぼくはいない
ぼくの世界は君だけです

名を××と云います
種族はかいじゅうです
そう、ぼくと同じ種族なんだ
けど、異なる個体です

かいじゅうさん かいじゅうさん
蛇の目のかいじゅうさん
君の世界につれてって
ぼくの願いはそれだけだ

その脳髄にはどんな信号が走る?
そのこころではどんなことを思うの?
かいじゅうさん かいじゅうさん
大好きなかいじゅうさん
君の世界にぼくはいない
だけど、
ぼくの世界にいる君は
綺麗だね、かいじゅうさん

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