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韓国公開中の映画『国家不渡りの日』 金融危機と幸福と

韓国で観た『国家不渡りの日 』(原題:국가부도의 날 ) 。これはガチのやつです。韓国経済が1997年に実際に蒙ったデフォルト(債務不履行)危機とそれに伴う未曽有の経済難、IMFの財政支援と引き換えに飲まされる構造改革という一連の流れを描いたもの。物語は中央銀行の国際金融担当の女性室長(キム・ヘス)、証券会社を飛び出して自らのファンドを作り危機の悪化に張る青年投資家(ユ・アイン)、そして町工場を経営する実直な職人(ホ・ジュノ)の3人を軸に進む。

冒頭、証券会社の新人研修、集められた新人社員候補たちは担当者に金をせびる。笑いながら。普通の韓国映画なら飛び蹴りが出るところだが、担当者は笑顔で人数分の封筒をカバンから取り出す。日本のバブル時代と同じだ。金の卵たちを囲うため、各社はこぞって社員をもてなした。でもこの担当者は頭が良かった。現場の情報もよく集めていた。そして、皆んなが不思議がるなか、会社を辞める。そして間も無く危機が本格化する。

一転、本作の終盤では、口上を必死で覚え、直立不動で就職面接に挑むスーツ姿の若者たちの姿が写される。日本の就職活動とほぼ同じ光景だ。むろん、金融市場で売り込まれ半ば破綻に近い形で構造改革を迫られた韓国と、山一證券の破綻などあれど国家財政は健全であった日本は同列では語れない。

しかし、国民の精神的余裕や社会様相の変化という点で、既視感を感じる部分が多過ぎる。日本の電気産業が次々に崩れていく昨今、構造改革の恩恵もありサムスン電子が世界的企業に躍進したが、社会全体の幸福が増えたどころが、むしろ減っている印象すらある。

作中では、インサイダーでうまく立ち回り立身出世を計る経済官僚が出てくる。また、先に挙げた元証券マンの投資家は、経済危機を踏み台に一気にのし上がろうとする。前者の行為は断罪されて然るべきだ。また、庶民の生活が脅かされるシーンは強烈に胸が痛む。町工場の職人(社長)が泣きながら泥水しているシーンは胸が抉られる。

では、果たして後者はどうだろうか? 誤解を恐れずにいえば、機を見るに敏な者にとって、経済危機は、自らがのし上がる最大のチャンスになり得ることを描いている。手放す者が多ければ、意思のある者にとってはそれら資産を底値で買い占めることができる。(※いわゆるハゲタカファンドがやっていたことだ)金融市場で義侠心や愛国心は通じない。数字と度胸とタイミングが全てだ。それが祖国であれ外国であれ、投資機会があれば張るのが投資家だ。値上がりも値下がりも同列の投資機会だ。経済危機=災難という庶民的観点からはタブーに映るこのような側面も本作は網羅している。

※経済官僚の言動や事実関係などには脚色があるとの指摘もある
※日本公開は2019年の予定

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