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映画『ボーダーライン ソルジャーズデイ』- 現在進行形の話

ドゥニ・ヴィルヌーブが監督した前作はマジで神ってたが、本作も負けず劣らずヤバい。
少しだけネタバレ御免だけど、印象的だったのはこのシーン。

少女を連れ、銃を背負い、ある農夫に助けを求めるベネチオ・デル・トロ。農夫はろう者だった。手話で話しかけるデル・トロ。農夫が驚き手話で答える。

農夫「なぜ手話ができる?」
デルトロ「子供が必要だった」

過去形で答えるデルトロ。連れている娘は、自分の子供を殺したマフィアの娘だ。

本作では衛星や航空機から映される俯瞰映像がたくさん流れる。空から地上を捉えると、そこに映される人間は一種、統計的な存在として標準化される。政治権力側の視点であり、映画的にも色々都合が良いアングルだ。しかし、映画が映画である所以は、限界まで人間に寄り切って、内面まで見通すところにある。極限のシチュエーションでそこに迫り、目を背けたくなるところまで抉ってくるのがボーダーラインだ。

黒い陰影と終始心を騒つかせる重低音。ああ怖かったと割り切れない。なぜなら本作が現在進行形の話だからだ。

7年前に米墨国境を越えたことがある。米サンディエゴで行われた映画祭に選出され、その帰りにせっかくだからとメキシコ国境の街を訪れた。渡航注意勧告は出ていたが、行きたかった。陸路の国境を徒歩でいとも簡単に越えた。まずタコスを食べた。そして二日間街を歩きまくった。習性だ。街は歩いて覚えてなんぼ。1つ関所を越えただけで驚くほど英語が通じないが、人がいて営みがあるのは変わらない。
祭りがあった。小さい子供連れの家族。音楽が流れ、楽しそうな姿は何も変わらない。
映画館があった。新しいシネコンのようだ。新しいというのは、外観だけではない。集まる子供達の「これスゲえよ!」というはち切れんばかりの笑顔で分かる情報だ。良いなと思い写真を撮った。気付くと、いつのまにか後ろにたいた警察官に囁かれた。スペイン語は分からないが、「撮らないで」という意味であることはジェスチャーと表情の硬さで分かった。

作中で、世界の違う者同士が、なぜか理解(?)するシーンがある。そこを観てほしい。

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