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眼に映るのは何か? 『殺人の追憶』

久々に観たが言葉にならない。ポン・ジュノ監督のデビュー2作目にして、その名を知らしめた名作。名作というのは映画としてであって、ある村における実際の連続殺人事件の捜査が題材になっていて、まずその内容や顛末に言葉が出ないというのがある。そのやりきれなさを映画ならではの手法で効果的に伝えているところが本作の見どころ。ソン・ガンホの絶句で幕を閉じる本作。

当時軍事政権下、韓国の警察の手法も暴力むき出し。目星を付けた容疑者には殴る蹴る、証拠を捏造し、結論ありきで自白を迫る。韓国映画ではお馴染みのシーンだ。そんな凄惨なシーンも、ポン・ジュノの手にかかればどこかユーモラス。暴力を振るう警察の方も、どこか憎めない。(※同時に映画の中できっちり「落とし前」をつけさせてもいるが)暴力が日常のなかで生きてきた人間・社会の安定感というかルーティン感がある。しかし、その歪みを何気ない所で見せる。さらっと。

今回久々に観て印象的だったのは、ある容疑者の佇まい。初めて観たときは、いかにも怪しそうな印象だったものが、よく見ると(当時の学生ならではの)心の傷のようなものが滲み出る。ああ、そうだったのかと。『1987 ある闘いの真実』などを併せ観るとよりくっきり浮かび上がるものがあるだろう。偶然か、本作でも、片方だけの白いシューズが使われる。

本作では「見る」シーンが強く心に残る。主人公の刑事は自分は犯人を「見抜く目」があると自負する。しかし、先述の通り、それは色眼鏡や曇った目でもあるのだが、ときには動物的な観察眼で手がかりを見つけることもある。そして最後は、自分には見えないという自覚を吐露しながら、ある人間の目を見つめる。

本作に限らず、ポン・ジュノ作品の見どころの一つとして、色の使い方がある。黄色、赤、白。それら色が、ぞれどんなシーンで、どういう意図を込めて使われているか注意して観られたし。

「ポン・ジュノは最近つまらない」とか偉そうなこと言ったけど、いやいやいや、恐れ入りました。本作だけでも土下座したいほどのクオリティ。

#ポンジュノ #殺人の追憶 #ソンガンホ #映画 #韓国映画

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