見出し画像

2020私的年間ベスト ーテン年代から遠く離れてー

年間ベストの前に

新型コロナウイルス感染拡大を経て音楽シーンは今も刻一刻と変容しているが、それらのうち少なくない部分がテン年代に対する反動と揺れ戻しとして現れているように僕には感じられた。ではここでいうテン年代の音楽シーンを特徴づける要素とは何かというと、それは

1.ブラックコミュニティに由来するHIP-HOP/R&Bの客演文化がジャンルの枠を超えて拡大したこと。

2.1.に関連してメジャーシーンのアーティストがインディー/アンダーグラウンドのアーティストをフックアップという形で取り込み、メジャー主導でメジャー/インディの構造が再編成されたこと。

の2つであると言える。その意味で考えればやはりカニエ・ウェストの『MBDTF』はその象徴的作品と言えよう。インディーフォークの旗手ボン・イヴェールを客演に招き、ジャンルの垣根を超えたまさしく巨大なファンタジーを彼は築き上げようとしていた。しかしながらこのような状況は永遠に続くものではなかった。メジャーアーティストによるフックアップを経てインディーのアーティストは準メジャーアーティストとでも言うべき存在に昇格され(ジェイムス・ブレイクを思い浮かべて欲しい)、両者の交流が生むダイナミズムは次第に損なわれていった。さらには客演文化の拡大は所謂客演祭り的な安易な話題先行型の手法に行き着き、個のクリエイティビティの軽視につながりかねない状況を生んだともいえる。結局のところ客演やコラボというのは創造性の外注化に他ならず、それらが過剰に繰り返されれば個々の創造性はやがて目減りしていくのは目に見えている。

このようなテン年代的状況の生む弊害に対する反省として、2020年の諸作品は位置付けられるのではないかというのが僕の仮説である。それが端的に表れているのがバンドミュージックの再興というべき事態である。ロック、メタル、フュージョン、ジャンルは何でも良いのだが、とにかくこれらに類するアーティストの傑作が怒涛の勢いでリリースされ続けたのが2020年だ。では何故これがテン年代への反省たり得るのか、それはひとえに言えば客演文化の流動的なメンバーシップから、バンドミュージックの固定的なメンバーシップへの移行を示すからで、つまり同じメンバーの中で表現を更新しなければならない状況が、単純に客演という形で外注化すればよかったテン年代におけるそれと好対照をなすからである。

ここでバンドミュージックの流れが続くのかどうかは置いておくとして、テン年代という時代を反省的にとらえる視点は今後重要になっていくのではないか。以下に続く年間ベストもそれに掉さすものとなりえたら幸いだ。

年間ベスト


50. The 1975『Notes On A Conditional Form』

49. Taylor Swift『folklore』

48. Dominic Fike『What Could Possibly Go Wrong』

47. Nashpaints『Blindman The Gambler』

46. Julia Reidy『Vanish』

45. Young Jesus『Welcome to Conceptual Beach』

44. 踊ってばかりの国『私は月には行かないだろう』

43. Rinsaga『輪-EP』

42. 長谷川白紙『夢の骨が襲いかかる!』

41. Autechre『SIGN』

40. Thomas Azier『Love, Disorderly』

39. Clipping.『Visions of Bodies Being Burned』

38. Moment Joon『Passport and Gançon』

37. JUNES K『SILENT RUNNING』

36. 浦上想起『音楽と密談』

35. Sauce and Dogs『Sauce and Dogs』

34. Duma『Duma』

33. Carl Stone『Stolen Car』

32. 100 gecs『1000 gecs and Tree of Clues』


31. BBHF『BBHF1 -南下する青年-』

30. Sufjan Stevens『The Ascension』

29. Childish Gambino『3.15.20』

28. NINE INCH NAILS『Ghost V』

27. Greg Puciato『Child Soldier: Creator of God』

26. Ingrina『Syste Lys』

25. Ulcerate『Share Into Death And Be Still』

24. Imperial Triumphant『Alphaville』

23. downy『第七作品集『無題』』

22. DIMLIM『MISC.』

21. (sic)boy, KM『CHAOS TAPE』

20. Bring Me The Horizon『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』

19. Lauren Bousfield『Palimpsest』

18. Kaatayra『Toda Hystoria pela Frente』

17. REBEL WIZARD『Magickal Mystical Indifference』

16. Oneohtrix Point Never『Magic Oneohtrix Point Never』

15. Mom『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』

14. Yves Tumor『Heaven To A Tortured Mind』

13. Ghostmane『ANTI-ICON』

12. Arca『KiCk i』

11. Liturgy『Origin of the Alimonies』

10. GEZAN『狂(KLUE)』

9. 青葉市子『アダンの風』

8. SAULT『Untitled(Rise)』

7. Son Lux『Tomorrow Ⅱ』

6. Respire『Black Line』

5. NEPTUNIAN MAXIMALISM『Eons』

4. THE NOVEMBERS『At The Beginning』

3. Oranssi Pazuzu『Mestarin kynsi』

2. Son Lux『Tomorrows Ⅰ』

1. BUCK-TICK『ABRACADABRA』


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?