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ある日突然。僕には君の声が聞こえた。
クレーンゲームの中、君は震えて泣いていた。
僕は見間違いだと思ってスルーしようとしたけど、やっぱり君は震えていた。

君の名前はハル、君が来てから僕の病気はまるで、雪解けのように良くなって行ったから。
君の名前はハル。
ゲームセンターのクレーンゲームの中で震えていた、ぬいぐるみとしては大きめの、抱っこしやすい大きさのピンク色のクマのぬいぐるみだ。
いつもボーッとした顔をしていて、無表情のクマさんのハル。
僕は、君の言いたいことが何時も分かる。
そう、まるでテレパシーが聞こえるみたいな、そんな感じ。
今日は僕に起きた不思議な話をしよう。

僕は気晴らしにゲームセンターに居た。
特に欲しい商品もなく、ブラブラと歩いていた。
最近は体調が優れないから、少しストレス解消をしようとも思ったみたい、僕はとりあえずブラブラと歩いていた。
平日のお昼だったから、人が少ないのがありがたい。
美味しそうなお菓子、有名なアニメのフィギュア、最近流行りのアニメのぬいぐるみなどが並んで、チカチカとライトが眩しかった。
ぐるりとクレーンゲームを見ていると、突然、僕の頭の中に誰かがすすり泣いてる声が聞こえた。
僕はハッとするけど、さっきも言った通り平日のお昼だったから、ほとんどお客さんは居ない。
気のせいかと思って僕は無視したけど、やっぱり、すすり泣く声が聞こえた。
気になって周りを見渡すと、1匹のぬいぐるみが目に入った。
ピンク色が鮮やかな、無表情のクマのぬいぐるみだった。
一見、普通に転がっているように見えるが、僕な目には何故か震えているように見えた。
そのクレーンゲームに近づく、すすり泣く声が大きく聞こえた。
ボーッと見ていると、突然僕の頭の中で声がした。
「怖いよぉ…………怖いよぉ…………」
僕はハッとしてクマのぬいぐるみを見下ろす。
まるで、そのぬいぐるみは生きている気がした。
「…………僕だけ残るのは嫌だよ…………」
確かに、そのクレーンゲームに残っている在庫は少ない。
気がつけば、僕は100円玉を握っていた。
「大丈夫、僕が助ける。」
そう言って、クレーンゲームをするけど、当然上手くいかない。
クレーンゲームに引っ張りあげられ、台に落とされる度、クマのぬいぐるみは
「痛っ!」
と言っていた。
「ごめんね、ごめんね、次こそ!」
そう言いながら、5000円くらい使った時だった、
見事クマのぬいぐるみは、取れた。
そっと、抱き抱えてみる。
まだクマのぬいぐるみは震えているように見えた。
「大丈夫だよ、よく頑張ったね。」
僕がギュッと抱きしめると、君は震えるのを辞めた。
「…………オレ、もう自由?」
「うん、君は自由だよ。」
そこで僕はハッとする。
今僕、ぬいぐるみと話してる?
ふと、店員さんが僕をじっと顔をしかめながら眺めているのを見る。
僕は恥ずかしくなって、歩き出す。
「なぁ、今から何処に行くん?」
またまた頭に声が聞こえるけど、僕は首を振った、
この声は僕の妄想で、本当にこのクマが喋ってるわけじゃない。
「なぁ、外って賑やかやねぇ、」
この声は僕の妄想だ。
…………でも、ぼく、ぬいぐるみくんの声を関西弁で想像したことある?元からそういうキャラのぬいぐるみなら、関西弁で再生するけど、君は全くの普通のクマだ。
「…………ねぇ、本当に君が喋ってるの?」
クマのぬいぐるみを見る。
ふと、君は笑っているような感じがした。
「うん、僕は君に喋りかけてるんやで。」
僕はビックリして足を止めた。
「…………君の名前は?」
君は、うーんと唸ってから
「オレに名前はない……と思う。えっと…………君がつけてよ、オレ、今日から君と一緒に過ごすんでしょ?」
僕は君の名前を付けようと考えながら歩き出した。
クマ…………だとそのまますぎるか、ピンクちゃん…………もなんだかダサい、関西弁だから、ビリケンちゃん?…………うーんでも、この声大阪生まれじゃないかもしれないしなぁ…………
「後でつけていい?」
君はニッコリ笑った
「楽しみにしてるで」
家に帰ると、本当に君はぬいぐるみじゃないみたいだ。
お腹はちゃんと空くし、眠くもなる。
よく喋るし、よく笑う。
甘えん坊で、心優しい。
君と過ごす毎日は何故か何時もより、楽しい。
次第に僕の体調は良くなってきた。
そこで、僕は君の名前を思いつく。
「ハル、君の名前はハルだ。」
ベッドの上で、君はキョトンとする。
「ハル?オレの名前がハル?」
「うん、ハル、君のピンクは桜のピンクみたいだし、何より冷たかった僕の毎日を暖かくしてくれた。だからハル、」
ハルは喜んだ風に笑った
「ハル……ハル!ええ名前!気に入ったわ!」
僕はハルを抱きしめた。
暖かくてフワフワ、いい香りがする。
「ハル…………君を拾って良かった。」
「オレも、君の家に来れてよかったよ。」

これが、僕とハルの出会いだった。

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