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ミックス時のやり過ぎ、5のサイン

普通のものとはちょっと視点を変えた、面白いミキシングの記事です。

ミックス時におけるプラグインの使い方の説明に、私たちはこれまで多くの時間を割いてきました。そしてどの記事やチュートリアルにも、「慎重に、やり過ぎないように」という忠告がついています。

リバーブでスペースを埋める、でもサウンドをボヤけさせないように。ボーカルにサチュレーションをかけてください、でも不自然にはならないように。ドラムにコンプをかけて、でも潰さないように。

限りなくプラグインを追加できるこのご時世では、やりすぎることなんてままあります。でも、どうしたらこれはやり過ぎだ!ってわかるのでしょうか。今日はその疑問に当たってみたいと思います。

1. はっきりとしたトランジェントがない
もしミックスに、特に低音の部分において、目標となるものがないと、コンプをかけすぎることになるかもしれません。

コンプをかけ過ぎたサウンドというのは、ゲインをかけ過ぎから始まります。10dBも動かすと、わかりやすくはなりますがナチュラルさは失われます。速いアタックも良くありません。スネアのクラックを落ち着けたいとかオーバーヘッドの余裕を作り出したいとかもあるかと思いますが、もし複数のトラックのトランジェントが潰されてしまうと、ミックス全体のインパクトがなくなってしまいます。

もしコンプをかけ過ぎた音を聴いてもなんだかよくわからないという人がいらっしゃれば、代わりに目を使ってみましょう。ご自身のトラックをバウンスして、波形を確認してください。ピークと谷間は見えますか?それとも音のひとかたまりに見えますか?科学的で正確というわけではありませんが、もしご自身のトラックの波形が押しつぶされているように見えるなら、コンプをかけ過ぎている可能性があります。

下のオーディオを聴いて、スクリーンショットもご覧ください。これはStudio Oneでの同じ波形を表したファイルです。前半(波形では左半分)はコンプをかけたもの、後半(波形では右半分)はコンプをかけ過ぎたものです。コンプかけ過ぎのバージョンでの音の変化がおわかりいただけるでしょうか。その結果としての波形の変化もおわかりいただけるでしょうか。

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コンプをかけたものと、コンプをかけ過ぎたものの波形

コンプレッサーというエフェクトによる変化を聞き分けるには、時間がかかります。あなたが敬愛するエンジニアでも、たまにコンプをかけ過ぎていたことがあります。しかし、彼らもそういうことに対処し続けていますし、そういったものを聞き取る能力を身に着けてきています。下のビデオで、そういった兆候がどういったものか触れてみます。

とりあえず、ご自身のミックスの指針となるものを挙げてみます。

・平らにする必要のあるサウンドにコンプレッサーをかけて、その他のレベルはオートメーションを書くことで調整する
・ゲインをかなり下げなければならない時は、一つのコンプレッサーだけに頼らない。2つ3つくらいのコンプにエフェクトを分散して、いかにも人工的な音の潰れ方とはにならないようにする。
・結局何をしているか把握できなくなったら、マスターからコンプを外すこと。

(訳注)この動画は、コンプをかけすぎた音とはどういうものかといった内容です。

2. ミックスを聴いてもノレない
ミックスをした曲を聴いても足でリズムを取る気にならなかったり、頭を振りたいと思えなかったり、(節度のある音量で)踊れなかったりするのなら、EQをし過ぎかもしれません。その原因には2つの可能性が考えられます。

可能性 #1
EQで削り過ぎ。時には耳障りなレゾナンスを切るために6dBほどある周波数を切る必要に迫られるかもしれませんが、極端に切れば切るほど音楽的に不自然な音になっていきます。薄っぺらい音に感じるようになり(特に中音域でそうなります)、曲のリッチさが欠けていきます。一度EQで削り始めると、どこの周波数もなんかちょっと違うなという気になって、ついどんどん削っていってしまいます。レゾナンスのすべてが悪いというわけではありませんし、多少のマスキングは、繊細とは真逆だけどまとまった音だと、そう感じられるようなミックスにするためには必要になり得る話です。

可能性 #2
持ち上げすぎ。EQでブーストすると「ラウドネス」的にさくっと満足感が得られますが、そのせいで多くのエンジニアがゲインを少しだけ少しだけとEQでどんどん持ち上げてしまい、ミックスがやり過ぎになっていきがちです。ローミッドでゲインを上げすぎると、音が濁りもさっとします。キックやベースがローエンドのひとかたまりの音となって、音がゴツンとしてパンチがなくなります。高中域や高域では、ブーストし過ぎると各楽器の輪郭が失われ、ハーモニーがぐちゃぐちゃ混ぜられたようなものになってしまいます。忘れてはいけないのは、1つか2つしか全体のミックスの中で目立ってはいけないということです。

NeutronのMasking Meterを使って、最小限のEQでマスキングを取る方法を学んでいきましょう。

3. そのノイズを止めろ!
サチュレーションをドラムやシンセ、ボーカルにかけた時に生まれた新たなハーモニクスは、ミックスの生き生きとさせてくれ、いろんな要素をまとめてくれます。これが、多くのプロデューサーがアナログモデルのサチュレーションのプラグインをデジタルトラックに差し込む理由です。しかし、これは諸刃の剣でもあります。

サチュレーションをかければかけるほど、ミックスは飽和し始め曖昧なサウンドになってきます。やりすぎかどうかテストするために、ミックス音源を最初から最後まで聴いてみてください。もし角のあるムカつく音が音源の邪魔になってれば、やりすぎということです。

他のわかりやすい例で例えるなら、画像をインスタのフィルターにかけた時に、色がきつく見えたりする時でしょうか。写真業界にはこの時に使う言葉があります。「サチってる」(訳注:本当に言うのかは業界人じゃないのでわかりません……あしからず)。

4. サウンドの空間的な配置が明確じゃない
他にもオーバープロセッシングだとわかるポイントがあります。各楽器が音の配置的にどこにあるかピンポイントで把握できていないこと。というのも、リバーブのテールがそのあたりをわかりにくくしてしまうからです。リバーブを使いすぎはすぐに気づくことの多いよくあるミスではありますが、センドを下げればこもったミックスがいつでも直るというわけではありません。例を挙げましょう。

テンポの速い曲や変化のパターンが多い部分では、長めのディケイでは連打や跳ねるような音の時は長すぎるかもしれません。ゆったりなギターの時はそういう設定で最高なサウンドになるかもしれませんが、速弾きなんかだとごちゃごちゃします。

こういったことに対処する方法があります。だいたいのリバーブにはフィルターが内蔵されています。このフィルターを使ってリバーブの高音域と低音域の量をコントロールします。もしミックス内にいくつもリバーブを入れたくないのであれば、今入れているリバーブを一旦全部外して、1つのセンド/リターンのチャンネルにまとめてください。最後に、オートメーションを使ってリバーブをタイトに調整してください。長過ぎるリバーブテールを引き止めたいとか、フェード中のリバーブのレベルを下げたいとか思うかもしれません。こういった小さな変化がミックスの最後に効いてきて、大きな違いを生みます。

リバーブとは何ぞや、どう使うのだという話がこの動画で学べます。

5. セッション内迷子になっている
最後のTipですが、もし何が問題のあるプラグインなのかと9つのエフェクトを毎回毎回バイパスして調べているとしたら、あなたはオーバープロセッシング違反で罪に問われてもいいでしょう。あるミックスが他のミックスよりもエフェクトをかける必要がある時もあります。しかし、「レス・イズ・モア」のアプローチだって全然悪いことじゃないんですよ。

もしそういったプラグインが必要なサウンドに貢献していないなら、付け足す必要はありません。というか、おそらく何の助けにもならないでしょう。その代わりに、良い感触を得られるまで一つひとつエフェクトをバイパスしてください。もしくはすべてを白紙に戻してやり直すかです。

まとめ
手持ちのエフェクトがどういう機能をするのか、そして何を聴きたいのかを学ぶのには、鍛錬が必要です。ミュージシャンが作曲していない時に楽器を練習するのと同じで、ミックスのセッションの合間に、各エフェクトのパラメーターの理解を深め、良い音を作るプラグインの組み合わせを探していってください。

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