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人民鉄路の顔 東風4型をお手軽に撮りに行こう

読者諸君、東風4型ディーゼル機関車を知っているかい?
1974年製造開始、延べ製造数5000輌を大幅に超え、中国の津々浦々を走り抜けた傑作機を撮りに行きたくはないかい?

本記事はそんな東風4(DF4)をお手軽(要出典)に撮りに行きたいというフットワークの軽い海外鉄諸兄向けの記事である。

東風4型の生き残る地、それは浙江省金温鉄路

いかに5000輌以上の大所帯といえども、寄る年波には勝てず…(そして中国政府肝入りの巨額のインフラ投資による電化路線の伸長と車両の近代化には勝てず)、活躍の場は年々狭まっている。
その姿は蒸機の終焉を主導したDD51と重なる。奇しくもDF4も末期の中国国鉄線蒸機を終焉に追いやった立役者である。

そんな東風4型であるが、日本から行きやすい場所にまとまった輌数が運用されている地がある。それが浙江省金華市と温州市を結ぶ地方鉄路・金温鉄路である。

金温鉄路は古来よりの港を抱える(つまり金持ちの街)温州の商人が我が町にも鉄道をということで、自分たちで資金を出し合って建設したうえで浙江省に寄付した鉄道路線である。
そのため国鉄線と接続され直通列車も多く運行されているが、金温鉄路公司という独立した鉄道企業であり、最大の株主は浙江省という少し特殊な形態の地方鉄路である。

そのためか国鉄線とは異なる独自色と呼ばれる塗装をまとっている。これは中国では極めて珍しい事態である。これは撮りに行かねば…ということで2023年8月8日に温州駅に夜行列車で降り立った。

麗水市で金温鉄路を追う

(中国入国・撮影地到達ガイドは最後の章に詳しく載せてます)

中国で地方都市に向かう場合は夜行列車が便利である。8月7日に上海浦東国際空港に降り立った筆者は例に漏れずその足でそのまま上海虹橋駅より高速鉄道で移動し、杭州駅19時24分発K2905列車温州行きに飛び込んだ。

もともとの予定では杭州駅20時41分発のK1275列車を予約していたのだが、中国渡航数日前に華北地域の広範囲を巻き込んだ大雨によって、内モンゴルからやってくるこの列車が運休となり、急遽予約を取り直したのだ。

上海浦東12時ころ着の飛行機で入国した筆者は、はからずも中国入国+浦東‐虹橋の上海市内大移動+上海‐杭州の高速鉄道移動+杭州東駅‐杭州駅の杭州市内移動を7時間で行わなければならないというタイムアタックをしなければならなくなってしまった…。

なんとかタイムアタックを成功させ寝台車に収まったのち、早々に寝入ってしまったので結局食堂車は行けずじまいであった。

早着し駅前で途方に暮れる乗客たち

定刻5時40分温州着のK2905列車であるが、金温鉄路は事実上の盲腸線ということもあり、なんと4時半頃には到着し放り出されてしまった…(これは勘弁してほしいやつ)
8月ということもあり寒くないことだけが救いであろうか。

すこし市内を散策したのち撮影地として目星を付けていた麗水市に移動するため、折り返しの金温鉄路の列車に乗り込む。

ホームに降りると見慣れた緑色の塗装ではなく、青白の金温色を纏ったDF4Dが入れ替えを行っておりこれからの撮影への期待が高まる
(コロナ前に訪問した方によると東風4型の中でもさらに世代の古いDF4B型が主力であったとのことだが、いつの間にかDF4D型に置き換わってしまったようだ…)

金温鉄路には並行して高速鉄道も走っており、移動だけならそちらの方が早いのだが、ロケハンも兼ねて在来線客車列車に乗り込む。
2時間程度の乗車なので一番安い硬座を選択したのだが、さっそく車掌に外国人として捕捉されてしまい、車内のどこからか連れてこられた日本語話せる学生君に、どこ行くんだ、なぜこの列車に乗ってるんだ、知り合いはいるのか、メシ食ったかと質問攻めを受ける。
(車掌氏に悪意があるわけではないかとは思うが、こういう時はとにかく無害な観光客を装うのが鉄板である)

麗水に着くとまず駅から徒歩圏内にある大渓という川の鉄橋を見下ろす撮影地を目指す。

とりあえずウォーミングアップとして並行して走る高速列車を狙う。
このような山間地を走る路線とはいえ1時間に数本は列車がやってくるので撮影効率は良い。

次いで並行する在来線の方の金温線の貨物を狙う。
港湾都市温州に向かう路線だけあってこちらは貨物列車の設定も多い。

幾本かの列車を撮ったのち、郊外に向かう路線バスが集まるバスターミナルまで移動する。
バスターミナル周辺は安い食堂が集まり腹ごしらえにも便利なのは、旅好きの間ではよく知られたtipsである。

華南地域はやはりコメが旨い。丼一杯20元である。(コロナ前と比べるとやはり物価は上がっているか)

バスターミナルで帰りのバスの時間を確認してからバスに乗り込む。車内は筆者以外みな知り合いの公民館状態である。(非常に肩身が狭い…)

バスの入り口にコロナ関連の健康証を見せろとかいう張り紙があった気がするが、今や誰もそんなものは気にしていない(3カ月くらい前まではあんなにてんやわんやしてたのにね)

海外の田舎道でバスを見送るときほど心細くなるときはあんまりない。
市内まで15㎞ほどなのでいざとなれば歩いて帰れるというのが心の支えである。

気を取り直して道路脇から線路を見下ろす。
旅客列車まではしばらく時間があるが、貨物でいちど確認したいところである。

と思ったらよく分からないゲテモノが来た。

そして本命のK942列車が峠を下ってきた。

金温線最大の撮影地・郎池の築堤(筆者命名)で想定通りのカットを収める
DF4D+客車18両の堂々たる長大編成である
前日の午前11時ごろに貴州省の貴陽を出発し長躯26時間、終点温州まではあと2時間ほどだ。

少し場所を移動して30分ほど後を続行して下ってくるK1052列車を待つ

この列車も前日11時半過ぎに青島北を出て温州まで30時間ほどを走る。
こういう長大客車編成ならではの撮り方も試したくなる。

最後は峠を上っていく列車を見送って撮影地を撤収する。

いくら山間地とはいえ8月の野外での撮影は体力を消耗する。
麗水からの帰りは客車列車でのんびり帰る余裕などなく、高速列車に乗って温州までワープした。

温州市内のホテルは温州駅前の錦江之星である。ここは確実に外国人の宿泊許可を持っていることを確認できたので、事前に予約しておいたのだ。

夕食はホテルすぐの人民版スタローバヤへ。
中国は安食堂でも(あんまり)外さないのがよい。

一食13元はかなり温州のような都市部ではかなり安い方の部類に入るのではないかと思う。
その後、天台山・寧波・上海を観光して、日本への帰路についた。

中国入国・撮影地到達の手引き

コロナ前は日本人はビザなしで15日間まで滞在できたということもあり、非常に近い国であったが、コロナ禍を経てビザ免除制度は無くなり、中国渡航には面倒な手続きを経てのビザを取得しなければならなくなってしまった。

しかし金温鉄路(を含む浙江省‐江蘇省‐上海市)のみであれば、この面倒なビザを取得せずに渡航することが可能なのだ。

詳細な条件等は公式や他のブログなどを確認していただければと思うが、要は

  • 指定された地点から入国(上海浦東・上海虹橋・南京禄口・杭州蕭山空港など)し、指定の地域内に滞在(上海市・浙江省・江蘇省)

  • 第三国への乗り継ぎの航空券を所持していること(日本⇒上海⇒香港など)

  • 乗り継ぎ間の滞在時間が144時間以内であること

を満たせば、ビザを取得せずに中国に入国して金温鉄路を撮ることが可能なのだ。
筆者は温州・麗水までケチって客車列車でのんびり訪れたが、上海や杭州などから高速鉄道に乗ると3時間ほどで到達できる(何なら日帰りもできる)。

次に撮影地情報であるが、まず麗水駅すぐの撮影地はココ⇓である。
地図の厦河塔という塔のすぐ脇から線路を見下ろすことが可能である。(中国渡航経験ある方は常識であると思うが、画像右上の丽水站と描かれた部分が麗水駅である)
厦河塔を囲む三角の道路の左上の辺から、塔に登る小道がある。
駅から約1.2㎞ほど

次に郎池の築堤と筆者が名付けた撮影地へは麗水東バスターミナル前のバス停からK501路という路線バスが1時間に1~2本程度出ている(運賃4元)。これに乗り郎池というバス停で降りると目の前が撮影地である。

丽水客运东站は丽水站から市内中心方向に向かって2㎞ほど
市内からは1時間ほど

コロナ禍ですっかり遠くなってしまった中国であるが、海外鉄目線ではまだまだ面白い被写体が残っているのでフットワークに自身のある諸兄はぜひ新たな被写体・撮影地を開拓してほしい。

秀山麗水
千年商港 幸福温州
詩画山水 温潤之州

(地方都市とはいえ郷土独自のキャッチフレーズがあるのがいいなと
消費税完納の街とか核廃絶宣言の街とかなんであんなに味気ないんでしょうね)
ではでは

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