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言葉をつぐむ。

演劇を始めたのは大学4年の時だった。
「卒業記念に一夜限りの芝居をやろう」と見よう見まねで書いた台本を手に学内の友人、知人を一人一人、説き伏せて同好会を立ち上げて、空き教室を借りて稽古をした。
演出も誰に習ったわけでもなく手探りで始めた。
面白いことに全員素人のはずが、声をかけた後輩の一人の女の子が高校演劇部の出身だった。
僕自身は主役ではなかったが、もちろん脚本・演出家なので美味しい役をもらった。
会場は大入り満員。
客の反応も良かった。
クライマックス。
若干、効果音がずれた。
僕は舞台上にいて落胆した。
半年以上かけて僕なりに全身全霊をかけて作り上げた舞台だったから。
一緒に出ていた唯一の経験者の女の子はそれに気づいて、観客に聞こえないように小さな声で「平田さん、最後までやりましょう」と僕に言った。
カーテン・コールでたくさんの拍手と声援をもらったことを今でも鮮明に憶えている。
”最後までやりましょう”
この言葉は支えになり、現在の僕を作っている礎でもある。

言葉には力がある。

コロナ・ウィルスの影響で誰もが傷ついている。

こんな時代だから、

僕は言葉をつぐむ。