見出し画像

レベル3を狙え - カークパトリックモデル運用の現実解

ラーニング業界で「効果測定」といえば、必ず通るのが「カークパトリックモデル」であり、そしてそれを取り巻く様々な派生議論だ。ここの議論は百出していて、カークパトリックモデルが提示されてウン十年経つ今なお様々なラーニングカンファレンスを毎年賑わせる風物詩のようなものになっている。その中にはもはや結論ありきの言いがかり(失礼。。。)みたいな議論も案外多いように感じるが、私としてはあまり「どのモデルが正しい(間違っている)」という論争には興味がない。それよりも、どれだって良いから、「経営に資する効果的な研修のPDCAサイクルはどうやれば実現できるのか」という観点にフォーカスしたい。で、今回はそれについての自分なりの結論について。

ヒューマンラーニングという複雑で未解明なメカニズムに数字はなじまない?

ラーニングという行為はとても人間的/生物的だ。こう書くと、今やマシンもラーニングする時代になったわけなので、学びが生物の専売特許とは言えなくなってきたわけだが、それでもマシンラーニングとヒューマンラーニングは現象は似ていてもメカニズムは異なる。

で、ヒューマンラーニングは人間的であるゆえに(トートロジーだけどこう書くしかない。。。)、そのメカニズムは少なくとも現在において解明されておらず、本当のところ人が研修で何を学んでいるのか?は言葉で定義できるものではないし、無理に定義しようとすると本質的価値が失われてしまう。よってもって、「研修の効果測定」などと言って数字を持ち込んでくるなんて言語道断、なんていう論理が、長い間ラーニング業界のスタンダードだった気がする。いや、効果測定そのものは必ずしも否定されてはいない。しかし、数字という一面的な評価の仕方ではなく、質的な効果(アンケートへのさまざまな回答)こそが大事だ、というのがより正確かもしれない。

私はその考えはよしとしない。学びは個人的なものだから、同じ研修を受けたとしてもそこから得る学びは人によって様々かもしれないし、それ自体は否定するものではない。思う存分学んでもらえばいい。ただ、開催する側にも意図があるわけで、すくなくともその意図が達成されたかどうかは明確に検証しなければならない。しかもその検証は、量的な検証でなければならない。なぜなら量で計測しなければ、達成率がわからず、Next Actionに繋がらないからだ。

研修は福利厚生ではない。投資だ。

そんな窮屈なことを言っていると本質的な学習の場がなくなっていってしまう?私はそうは思わないし、むしろ本質的な学習の場を守るためにもこれが必要だと信じている。これをやらなければ、「前回やった研修のアンケートからは、こんなに感謝のコメントがたくさん集まりました!よって次回もぜひ継続しましょう」という話しかできない。そして、こんな結論しか示せないと何が起こるか。不景気が訪れた瞬間にこの手の研修はまっさきに削減対象になる。なぜならこれは限りなく「福利厚生費」的な発想だからだ。

研修は福利厚生費ではなくて、戦略実現のための投資でなければならない。そして投資であるからには、そのリターンを示さなければならない。

研修のリターンとはなにか?

ただし、「リターンを数字で示す」というと、「研修効果を金額で示すなんて不可能だ」という議論になる。そして私はそれはそのとおりだと思っている。例えば特定商品に関する営業研修であれば、その商品の売上と営業研修受講状況を見ることで金額的な投資対効果を出すことができる。しかし多くの場合研修の効果はこのような直接的な効果ではなく、間接的な効果になる。だから「金額で示せ」と言われれば、私はそれにも与しない。

では「量的リターン」とは何を意味しているのか?私が考える「研修で示すべき量的リターン」は、「スキル」だ。

何を当たり前のことを今更言っているのか?という話に聞こえるかもしれない。しかし、実はこれだって、いざやろうとしたら難しいことに気がつくはずだ。「スキルの量的計測」を可能にするためには、スキル体系がなければならない。これはスキルの種類とレベルで表現される。そして体系ができたら、そのスキルを保持していることを知るための評価方法が必要だ。Entryレベルなら、ひとまずは「知識を保持していること」でいいだろう。それを知るためには簡単な知識テストをすれば良い。それなりに実践できることが求められるExperiencedレベルならば、実践していることを示すエビデンスを第三者が評価する必要があるだろう。業界で名が知られるようなExpertレベルであるならば、業界誌への寄稿や出版、講演とそれらへの評価(刷り部数や集客、商談へ結びついた回数など)が基準になるだろう。

ちなみにこれは、必ずしも各組織にてイチから作らなければならないわけではない。世間には資格であったり、デジタルバッジであったりが充実してきているので、これを活用すれば、自組織で必要なスキル体系のある程度はパッチワークで作れるかもしれない。

L4はどうするかというと。。。

ここまで長々と話してきた「スキル」は、カークパトリックでいうところのLevel2(知識)及びLevel3(行動変容)に当たる。ジュニアのスキルならL2に当たるだろうし、実践の証明がともなうExperiencedレベル以上ならL3と言える。さて、ではL4(成果)はどうなるのか?

L3の結果のL4、というボトムアップの考え方でこの結びつきをつくろうとすると、まず不可能だろう。なぜなら前述の通り、研修の効果とは間接効果だからだ。ではどうするか?ここは積み上げではなく逆引きで良い、というのが私の考え。つまり、「XXスキルがYYだけ向上した、その結果業績がZZ上がった」という分析をするのではなく、「今期のビジネス目標はZZだ。この目標を達成するためには社内にYYのようなスキルポートフォリオが必要だ。よって現状のスキルポートフォリオとのギャップを埋めなければならない」というストーリーはトップダウンで創るもの、と考える。これはあくまで仮説でよい。ビジネスプランの時点でこの仮説に基づいたスキルベースの目標を伴う研修計画を立てることができれば、あとは研修のPDCAが実現する。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?