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「学び直す」という言葉の前提が気になる

一応、背景は分かる。

リスキリング。ここ数年のラーニング業界における重要なテーマの一つだ。だいたいこんな事が言われていると思う。

  • 嘗ては「自分と家族の一生を養っていく仕事」を持つことが当たり前と考えられていた。そんな時代がずっと続いてきた。若い頃に一つの道を選択し、あとはその道を歩み続けていけば一生生きていけた。しかし、現在、時代の変化は早くなってきている。単一のスキルが価値を持つ期間は嘗ては数十年だったが、それが10年になり、5年になり、3年になりつつある

  • 一方、労働寿命も嘗ては短かった。多くの人にとって労働寿命はせいぜい40年程度だった。しかし、人生100年時代と言われる様になってきて、今や70代/80代だって「隠居」する必要なんて全然ないくらいに元気でやる気に満ちている。よって労働寿命も、50年、60年が視野に入ってきている。

  • 加えて、公的年金の心もとなさも追い打ちをかける。人口減少が継続し、「次世代が先代を支える」年金の仕組みは成り立たない。抜本的な対策として有力なのが年金受給年齢の繰り下げであり、そのためにも「長く働く」ことが奨励されつつある

となると、変化が激しい中で長く働くためには「学び直し」(リスキリング)を前提としなければならない、というのが背景なんだろう、ということは一応分かる。分かるのだけど。

「学び直し」はどれくらいの頻度で起こるイベントなのか?

よってリスキリングが欠かせない、ということで、具体的には、と提案されてくるのが、「ミドルになってから大学に戻って新しい学問を修めよう」とか、「これからはDXだからプログラミングスクールに通うのを奨励しよう」とか「資格取得してもらおう」とか、そいう話だったりする(そういうのはリスキリングではなくてリカレントだという定義もあるけど)。そして、企業に求められることとして、学び直し期間の長期休職を認めよう、とか、教育への金銭的サポートをしよう、という施策になり、そのために予算を確保したり、研修休暇制度を設けたりする。

でも、ここで一つ考慮に入れたいのが頻度だ。こんな一大イベントとしての「学び直し」は、一体どれくらいの頻度で発生するのか。もしかして、一従業員あたり1回、とか?あっても2回でしょ、とか?じゃないと予算がとても持たないよ、そんなに研修に投資してもらえないし、社員はお勉強してもらう以上に仕事してもらわないと。一人あたり1回の予算を確保するだけだってこれまでにないくらい思い切った投資なんだし、と。そんな感じだろうか。

その事情は分かる。社員の学習に対する投資計画、、、、いや、残念ながらコスト計画は、得てして前年度比や売上比でコントロールされる間接費という位置付けだろうから。そして間接費は、「研修予算」「採用予算」「社員の給与予算」「福利厚生費予算」などお財布を分けて管理される。だから、「来年度は研修投資を2倍にしてください!」なんて主張を通すのは、、、大変難しい。

「学び直し」の限界

でも、一旦そういう制約は脇においておいて。本当にこの「スキルの賞味期限短くなる問題」「人生長くなる問題」を解決するために必要な学びのあり方は何だったかに立ち戻ってみたい。

特に重要な前提は「スキルの賞味期限」だ。それはどれくらいと言われているか?30年?20年?もしそうであれば良かった。「40代になったらリスキル休暇を取得しましょう」とかいう施策で十分だ。でも、そうだっただろうか?確かスキルの賞味期限は、一桁少ないのではなかったか。

単一のスキルの賞味期限が3年だとしよう。だとしたら、果たして「3年に一度『学び直し』をしましょう」というのは、現実的だろうか?

「学び直し」という言葉には、「仕事をする期間」と「仕事から離れて学習する期間」という発想が含まれている様に感じる。しかし、「学び」を、非日常で、一過性で、仕事とは区別された一大イベントと位置付けている限り、「数年でスキルが陳腐化してしまう現状」への処方箋にはならない。逆の発想が必要だ。つまり、学びは、日常的、継続的に、仕事と統合された形で行われるものとするべきだ。これは「スキリング」を「教育」と考えていると生まれない発想だ。「スキリング」を「学習」と捉えることでこの転換ができる。

つまりは「学び直し」ている場合ではない。「学び続ける」以外に選択肢はない。学びを日常に組み込む以外に方法はない。

Learning Organization Initiativeの仕事

これはしかし、朗報と考えたほうがいい。リスキルを特別なイベントにしないということは、仕事から離れる必要が必ずしもないということだし、巨大な投資をする必要もないということだ。日常的に学べる機会を提供すること、その機会を活用しやすいようにガイド(キュレーション)すること、日常的に学ぶことができる時間的/物理的/心理的環境を整えること、そして日常的な学びを奨励すること。必要なことはこれだけ。巨大な投資は必要ない。ただし、これまでのいわゆる「研修部」の業務とは違う業務かも知れない。どちらかというとこれは社内マーケティング、社内コミュニケーション、社内チェンジ・マネジメントのような仕事だ。コンテンツ自体を広く深く早く把握する力も必要だし、UXやTechにも精通していなければならない。でも、Learning Organization Initiativeの仕事はそういう仕事だと思う。そしてこれはなかなかに追求し甲斐のある、一つのプロフェッショナルなキャリアだと思う。

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