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有機か無機か・・・(1)

ブログもずいぶん長く続けていますが、反響がありそうな話題というのがあって、そのひとつが「有機か無機」かというテーマです。

有機農業とか有機農産物といったパワーワードへの反応が多いように思います。
そもそも農業における有機とか無機って誰のため、なんのためのものなのでしょう。多くの人は、なんとなく、有機の方が良さそうというイメージ先行ではないでしょうか?

農業、とりわけ施肥技術的に考えた場合、有機の反対は無機ではなく、慣行となります。普通に化成肥料も農薬も使う農業です。堆肥なども使って土づくりをします。有機の定義に外れているから慣行とでも言うのでしょうか?そうすると、有機が特別のように感じてしまいますね。

まず、有機とは何なのか? ということについて正しく理解する必要があります。

化学の世界では有機といえば有機化合物を指しますが、これは炭素を含む化合物のことで、主に生体(生命体)の活動によって作られた化合物と言うことだったようです。したがって、二酸化炭素とかは含まれません。しかし、今は生体が合成する炭素化合物(有機物)も科学的に合成することができます。例えば、尿素などは実験室で作ることができます。

では、有機農業の定義ごは何なのでしょうか?
法律では以下のように定義されています。

「有機農業」とは、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう。
有機農業の推進に関する法律(平成18年)

化学肥料や化学農薬、GM作物は対象外とのことです。
これは海外の有機(オーガニック)でも概ね同じ定義となっています。

ところで、有機の議論の前に、作物(食物)の栄養とか生理について考えてみましょう。

農産物を含む植物も生物ですから、生育するために栄養が必要です。植物は光と二酸化炭素と水から糖(炭水化物)を光合成で作り出すことができます。しかし、花を咲かせ、身を結ばせるためには、タンパク質を合成することも必要です。タンパク質の主な原料は窒素ですから、窒素を根から吸収しなければなりません。また、リン酸はエネルギー源となるATPの原料であり、DNAの成分である核酸や細胞膜の成分であるリン脂質の原料となります。カリウムは細胞の中に大量に存在し生命の維持に欠くことはできません。

これら窒素、リン酸、カリは植物栄養上欠かすことができないものであり、肥料の3要素と言われています。これらは土の中で根から無機の状態で吸収されます。有機農業であっても、これらの栄養成分は無機で吸収されるのです。窒素、リン酸、カリの他に、カルシウムやマグネシウム、亜鉛やマンガンなどは植物栄養学上は微量要素とされていますが、これらの多くも根っこから無機体として吸収されます。

無機で吸収されるというのは土の中で成分が水に溶けてイオンの状態になって吸収されると言うことです。つまり、有機であろうが慣行であろうが、栄養素は昆虫や微生物などの分解作用を受けて無機体として吸収されます

それならば、最初から無機として水に溶けやすくしてまいた方が即効性があり、効率的です。それで化学肥料が発明され、普及したのです。

一般的に作られている作物は、その栄養要求量などがしっかりと研究されていますから、生育ステージに合わせて過不足のない肥料が最適なタイミングで与えることができます。

農業にとって化学肥料はイノベーションでした。化学農薬だけではなく、食料用として改良された品種などが供給されるようになったのは戦後の話です。これは緑の革命と呼ばれ、穀物などの収量が格段に高まり、人々を飢えから救ったのです。

日本では化学肥料の原料のほとんどを海外から輸入しています。肥料を輸入できるだけの産業が日本にあったから日本の農業は発展をしたと言えます。しかし、最近になってウクライナ危機や円安の進行などによって、肥料が輸入しにくくなってきました。有機農業だけで食料を賄うことができるのでしょうか?

私は仕事の関係で途上国に行くこともありますが、途上国では肥料は高級品なので、肥料を入手できないところもまだたくさんあります。有機農業などという言葉はなくても、必然的に有機農業であり、つまり、有機農業しかできず、そのような国では農業の生産性は低く、食糧難に陥ることもあります。

では、有機農業は必要ないのかと言うと、そうではありません。堆肥を畑に入れることは土の肥沃土を高めるのにとても有効です。有機物は直接、作物に吸収されなくても土壌の構造を作り、土壌中の水分や通気性などを確保する。土壌改良効果があります。

そのようなよい土は作物にとってはふかふかのベッドに寝ているように心地よいでしょう。そういうところで育った作物は肥料の吸収性も良いし病気にもかかりにくいと思います。農業の基本が土づくりと言われるわけです。

農業は決して自然な行為ではありません。土を起こして種を植え、雑草を抜き、収穫をします。一般的には一定の面積に単一の作物しか植えません。これをモノカルチャーといいます。つまり、畑に植えてある作物は1種類だけで、それ以外は雑草とされてしまいます。畑は生物の多様性が非常に低いのです。でも、その方が効率的に管理することができます。農業は自然を破壊する開発といえます。

一種類の作物しか植えてないから、病気や害虫が発生するとすぐに全体に広がってしまいます。だから化学農薬が必要とされるのです。特に、高温多雨で湿度の高い日本では病害虫の発生は農業の生産性維持にとって深刻な問題になります。

最近の農薬は残留性はほとんどなく、非常に安全と言えます。だから農産物に付着している農薬によって消費者が健康被害を受けた事例はこのところほとんどないと思われます。

化学肥料も化学農薬も作物の生理合わせて適切に使用することで農業の生産性を高めることが可能になります。生産性が良いと言うのは収量が確保できることですから、消費者は食料を安価で安定して得ることができるのです。農家の収入も当然安定します。

化学肥料も農薬も安いものではありません。特に最近はウクライナ危機や円安で肥料の価格が高騰しています。だから農家はできるだけ減らしたいと思っています。

有機か無機(慣行)かの議論は、いったい、誰のため、何のためなのでしょうか?
次回(機会があったら)は、有機農法で作られた食品について考えてみます。
有機食品は美味しい?身体にいい?環境にもいい?

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