その技術を、何に使うか。僕なら、日本企業を強くするために使う——EXIT経験を持つエンジニア、安齋研一郎の再挑戦
「最も成功する創業者は通常いい人間だが、目には海賊のような光をたたえている」——シードアクセラレーター・Y Combinatorの創業者であるポール・グレアムの言葉だ。
LeanerのTech Leadである安齋研一郎にとって、代表の大平は「最も成功する創業者」に映ったようだ。
安齋はペット領域のスタートアップ・Vapesの取締役として、ベネッセホールディングスへのグループインをリードした経験を持つ。Vapesを退職後、次の挑戦のパートナーに選んだのが大平である。
安齋は「いつか、ベネッセを追い越せたらいいですね」と静かに語った。創業期に参画した経緯から、数年先の未来図まで、胸の内に秘める想いを紐解いた。
プロトタイプも持たない起業家に、30代を懸けたくなった理由
—— 安齋さんは、過去に経営していたスタートアップを売却した経験をお持ちだとお伺いしています。再びスタートアップの創業メンバーとして、Leanerに参画した理由について、お伺いさせてください。
安齋:代表の大平を紹介してもらい食事をした際に、彼が構想している事業に携わることで、過去にやり残したこと——つまり、「まだ日本にない価値を生み出し、完全燃焼すること」に挑戦できると感じたからです。
—— 「過去にやり残したこと」について、より詳しくお聞きできますか?
安齋:少し長くなりますが、僕の経歴についてお話させてください。学生時代に、ペット領域で事業を展開していた企業の取締役をしていました。当時の経験が、現在につながっています。
そもそも僕は、起業や経営に興味があったわけではありません。ただ、学業にも飽きてきた2年次、面白い経験を求めてTNK(東京大学発の起業サークル)に参加したことで、起業を志す優秀な同世代とのネットワークができました。
TNK卒業後もやはり起業することはなく、大学院でドローンの研究をしていたのですが、現在Leanerのアドバイザリーを務める野口(現株式会社Unlimited代表取締役)に「仕事が回らないから手伝ってくれ」と誘われ、彼が代表を務めるVapesに参画することになったんです。
お願いされると断れないというか、見捨てられない性格なんですよね。本格的に仕事を手伝い始めると、研究をしている場合ではなくなり、大学院を退学してメンバーになりました。「起業に興味がないのに」です(笑)。
—— 参画後のエピソードについても、詳しく教えてください。
安齋:僕がVapesに参画した2011年当時は、現在のように起業環境が整っておらず、苦労の連続でした。事業プランを提示してベンチャーキャピタルから資金調達をすることは一般的でなく、またどこかの会社に事業譲渡するということも多くはありませんでした。なので、とりあえずIPOを目指していましたね(笑)。
受託制作でなんとかキャッシュを稼いでいましたが、自社事業は軌道に乗らず、20回程度ピボットした記憶があります。つい先日まで大学院で研究をしていたのに、いつからか生きることに必死になり、それが当たり前になっていましたね。
最終的にはペット事業が形になり、ベネッセホールディングスにジョインさせていただきましたが、それまではとにかく必死で、毎日を楽しむ余裕すらなかったです。
—— 苦労が多かった分、ジョインした際の達成感はひとしおだったのではないでしょうか。
安齋:それが、本音を言うと、達成感があまりなかったんです。グループにジョインした後も、計画した事業が何度も頓挫してしまい、必死さとは裏腹にやりきった感覚を得られない日々が続きました。
—— 冒頭の質問に戻りますが、その経験がLeanerに参画する理由の一つになっているのでしょうか。
安齋:おっしゃる通りです。彼と食事をした際に、プロトタイプもないまま事業の将来像を語り続ける大平の姿を見て、「彼となら、大きな挑戦ができそうだ」と感じたんです。
実現する可能性を感じた、「ベネッセを追い越す」というひそかな目標
—— 大平さんとの出会いについてお伺いします。当時は、どのような目的で接点を持たれたのでしょうか。
安齋:Vapesを退職するにあたり、次のキャリアを模索していたんです。時流に鑑みて、SaaS事業に携わりたいと考えていて、いくつか企業を探していました。その際に、知人に紹介されたのが大平です。
しかし彼にあるのは事業の構想だけで、プロダクトを持っていませんでした。その状態で、ひたすら「日本の企業は間接費の削減が課題だ」「こんな事業がやりたい」と、目の前にあるしゃぶしゃぶを口に運ぶ間も無く語っていましたね。
—— 当時の印象を教えていただけますか?
安齋:「初対面なのに、すごい喋るな」と思いました(笑)。そして、少なくとも僕と相性がよいことは分かりました。
具体的な計画やプロダクトがないので、「現在はコンサルタントがExcelとPowerPointで行なっているコスト削減を、テクノロジーに置き換える」という情報しか得られませんでしたが、明確にやりたいことがあることは間違いなかった。
一方で僕は、これといって明確にやりたいことがない「サポータータイプ」です。それぞれ役割が違い、うまくやっていける印象がありました。
また、彼を紹介してくれたのは、彼もまた現在Leanerのアドバイザリーを務める菊川(現OYO LIFE事業開発責任者)です。信頼に足る人物からの紹介であり、僕と相性が良いのなら、もう迷う必要もないなと感じました。迷ったところで、必ずしも正解の選択肢にたどり着くわけではないですから。
—— では、食事をしたところで、ジョインすることを決められた?
安齋:そうですね。その時点で具体的な計画はありませんでしたが、事業領域の選定が優れていることは間違いないと感じました。過去に経理や総務の業務を経験していたので、コスト削減の重要性と、それに目がいきにくい事実を肌で理解でき、この領域に挑戦するのは泥臭くとも価値があるだろうと。
また、ベネッセホールディングスのメンバーとして働いていたときに、大きな事業を運営することの意義を知りました。僕らが一生懸命に育ててきたペット事業と、ベネッセが展開するペット事業では、社会に与えられるインパクトの桁が違うのです。
だから、次に挑戦するときは、ベネッセを追い越すような事業をつくりたいと思っていたんです。「ずっと喋ってるな…」と思いましたが、それほど大きな絵を描ける彼となら、「ベネッセを追い越す」というひそかな目標が実現できるかもしれないと感じましたね。
あなたはその技術を、何に使いますか?
—— 現在安齋さんは、Leanerでどのようなポジションを担当されているのでしょうか。
安齋:Tech Leadとして、主に開発業務に従事しています。現在のLeanerは、僕がゼロイチで開発したものです。また経理や総務など、バックオフィスも任されています。エンジニアであれば、採用も担当しますね。
—— Tech Leadとして、Leanerにはどのようなエンジニアが向いていると思いますか?
安齋:最新の技術を用いて開発を行っているわけではないので、技術そのものに強い興味があるタイプの方には向いていないかもしれないな、と思います。逆に、技術を用いてインパクトのある事業を生み出すことに興味があるなら、楽しんで働いていただけるはず。
Leanerが提供するサービスは、グローバルでは既にユニコーン企業が生まれているものの、日本には現在プレイヤーが存在しません。まだ存在しない事業を生み出し、社会に価値を与えることに、技術の力で貢献する。そう聞いて、心が動かされる方には相性のいい環境だと思います。
また、創業期というフェーズに魅力を感じるなら、一度話を聞きにきてほしいです。スタートアップやベンチャーとはいえ、100人近い規模になると、すでに組織が完成してしまっています。しかしLeanerは、まだ自分の力でゼロから組織をつくっていけるタイミングです。
—— エンジニアに限らず、Leanerに向いている人の特徴はありますか?
安齋:「お互いに期待をかけあい、肩を組んで前に進んでいく」ことを楽しめる方は、向いていると思います。苦楽を共にし、お互いの背中を預け合うメンバーなので、パフォーマンスが高いかどうかよりも、信頼できるかどうかが重要だと思っています。
—— 最後に、今後Leanerをどのような事業にしていきたいか、展望をお伺いさせてください。
安齋:創業から1年が経ち、日本企業のコスト管理に“無駄”が多いことがよく理解できました。間接費は、特にそうです。コロナ禍の影響もあり、これを機に筋肉質な経営を目指す企業が増えていくと思います。僕らには、そのサポートができる。一日でも早く、日本全国の企業を助けられる存在になれたらいいなと思っています。
TEXT BY モメンタム・ホース