【空想エッセイ】昨夜の話(2)
「はあ…。」
僕はため息をついた。缶チューハイを飲む。またため息。
やっぱりだめだったかあ…。
こんこん、と窓を叩く音。東北にはうっすらと秋が来た。夜はもう、ちょっとだけ寒い。窓を開けた。
「やあ、一つ目小僧と………誰?」
「今日は新しい友達を連れてきた!イッポンダタラだよ。」
「こんばんはー。イッポンダタラっす。よろしくー。」
大きな身体。隻眼で、一本足。なのに、ノリが軽い。
「よろしく、イッポンダタラくん。なんて呼べばいい?」
お菓子を支度しながら、僕は尋ねた。今日はとっておきがある。九戸村で買える『しだみ団子』だ。村特産の甘茶もある。
「イッポって呼ばれてるっす!」
「じゃあイッポくん、よろしくね。」
はい、どうぞ。そう言って二人にしだみ団子と甘茶をあげた。
「黒いお団子?」
「見たことねえっす、これ。」
「どんぐりを使ったお団子だよ。黄な粉をかけて召し上がれ。」
二人がうまい、うまいと食べている間、僕はずっと考え事をしていた。そう、noteのことだ。
「そういえばナルさん。noteやってんすよね?」
イッポくんの声に我に返る。ため息も聞かれていただろうか。
「うん、やってるよ。ぬらりひょんが言ってたの?」
「つーか、妖怪には有名ですよ。『見える人』のnoteだって。」
「そう、なんだ…。」
「創作大賞、どうでした?」
うっ、と声が出た。黄な粉にむせ、咳き込む。
「…ナルさん、駄目だったの?」
「…全滅だよ、ぜ、ん、め、つ!」
「あちゃあ…。」
二人は顔を見合わせた。僕は甘茶を飲んでため息をついた。お茶は甘くておいしい。これで砂糖が入っていないなんて、信じられない。
「げんきだしてー!!」
「そうっすよ、来年があるじゃないですか!」
「うう…ありがとう、二人とも。」
でもさー、と一つ目小僧は僕の目をしっかりと見据え言う。
「ナルさんの初期作って、実際そこまででもないもんね。」
今度は甘茶にむせた。イッポくんも頷いている。
「初期作は読みづらいし、作りが甘いっすよね。このお茶くらい甘いっすよ。」
「それでいけると思ってたナルさんの考えも…」
「このお茶くらい甘いっす!!」
そう言って二人は大笑いした。
「…二人とも、励ましたいの、馬鹿にしたいの?」
僕は訊いた。悪気がないのがわかるからこそ、本気でむっとしてしまう。
「まあまあ、ナルや。」
驚いて振り返ると、そこにはぬらりひょんがいた。
「…いつ来たの、ぬらりひょん。」
「『初期作は読みづらいし』のあたりじゃ。」
「なんか声かけてよ。びっくりした。」
「悪いのう、わしはこういう妖怪だから。」
そう言って僕の隣に座り、甘茶を飲む。
「たしかに、初期作はつまらん。だがそれは、今は成長したという証拠だろう。来年の創作大賞の頃には、もっと成長しているかもしれん。」
ぬらりひょんがにじむ。僕は泣いているのか。
「頑張らんでいい。気楽に書け。いろいろな企画に参加して、成長を図るのだ。」
にっこりと笑ったぬらりひょんが、実の家族に思えた。涙を拭いた。ぬらりひょんは笑顔から真顔になって、言う。
「…とはいえ、わしらのことを書くときは、もっと人気が出るように書いてくれ。ほれ、わしをイケメンにするとか。」
無理。僕だけでなく、一つ目小僧もイッポくんもそう言った。
みんなでにぎやかなのもいいなあ。そう思った矢先ぬらりひょんが言った。
「それじゃ、わしらは帰る。」
「え、もう?」
僕は驚いてお茶をこぼした。ぬらりひょんは笑いながら言う。
「夜行を置いてきてしもうた。恨み言を言われてしまう。」
「ああ…。夜行さん、そうなると長いから。」
「今日は一時間コースかのぅ…。」
そうして、ぬらりひょんたちは去っていった。
窓を閉めようとして、何かが落ちているのに気付いた。それは、我が推し・丹生ちゃんが表紙を飾った、先週の『週刊少年チャンピオン』だった。何かメモが貼ってある。
「元気出してください。 イッポンダタラ」
ありがとう、イッポくん。なんて、なんて優しいんだ、君は。
僕は、二冊目のチャンピオンをしまった。これは、僕の宝物だ。
「さーて、来年は長編書くぞー!」
僕は涙を拭い、しだみ団子を頬張った。気楽に、たくさん書いてみようと思う。秋の夜と友達は、とても優しかった。
了
あとがき
はい、創作大賞は全滅でした。
読んでくださった皆様、スキをくださった皆様、ありがとうございました。来年はもっと精進します。
作中に出てくる『しだみ団子』と『甘茶』は、実際に岩手県九戸村で購入できる。美味しいので是非。九戸記事は完成間近。もう少々お待ちくださいませ。
我が家に先週のチャンピオンは本当に二冊あるのか。
それもご想像にお任せする。イッポくんは優しい子。
妖怪紹介記事も書けと、夜行さんが言うので書く。楽しみに待っていてほしい。