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オグナ 小説(9)

 ↑ここまでのお話

暫くそのまま月を眺めていた。
板張りの床は冷たくて気持ちがいい。
もう少しこのまま
ーーと月が何かに隠される
垂れ下がった何かが頰に当たる
長い髪の、女だ
私は飛び起きて距離を取る
女は膝と胸を付けて座って私を目で追っていた。
「あら、ごめんなさい。びっくりさせちゃった?」
うわ、オトタチバナヒメだ
何こいつ、足音全然しなかった
「なんですか?」
「さっきの、凄く良かったです。」 
切れ長の目に小さい鼻ぽってりとした唇絶妙な位置に配置された、超絶美人だ。
しかも、膝と胸を付けて踵を上げた姿勢はとても安定している。

鍛え抜かれている

私はそんな感想を抱いた。

「あ、りがとうございます?」
「なんで疑問形なの?」
「いやなんとなく?」
だってなんか含むもの有りそうだし
「私の皇子がごめんなさいね。」
えー、まさかの上から目線
しかも全然申し訳無さそうじゃ無い
「いえ、愉しかったです。他では体験で来ない体験でした。」
「あら、そう」
つまらなさそうにオトタチバナヒメは鼻を鳴らす
「オトタチバナヒメは」
「なあに?」
「あの(顔だけ、無茶苦茶)皇子のどこが良いんですか?」
あけすけな私の言葉に一瞬キョトンとした顔をしたオトタチバナヒメは
「地位、名誉、血筋、財力、戦闘力、知力、体力、あと顔。どれも一級品じゃない。」
指折り数えたオトタチバナヒメは私がこの政略結婚に前向きじゃないのがわかったのか
「そんなに嫌わないであげて。かわいい所も有るのよ。」
「嫌じゃないんですか?」
私が二人の間に入ってしまうのは
 「まあ、今更よ。あっちでもこっちでも。」
「うわぁ」
ドン引き
「私は今の待遇に不満は無いわ。」
一度瞼を閉じて開くと
「私はヤマトタケルの妃で彼に愛されている事を誇りに思っています。」
そう言い切ったオトタチバナヒメはとても凛々しく美しかった。

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