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オグナ 小説(3)

↑ここまでのお話


私の前に立ちはだかったのは驚くほど顔の良い男だった。
いくら顔が良いとはいえ、突然近づいてきて自分から名乗りもせず名前を問うのは失礼じゃない
会話の内容からしてこいつが兄さんが言ってた皇子なんだろう。
応えないと不敬だったりするんだろうけど腹が立った。
よし、聞こえないふりをしよう
「おい、お前は誰だ?」
ご丁寧に同じ質問を2回繰り返してきた
後ろから追いかけてきていたお供らしき人たちが追いついてその中の一人が言った
「何事ですか、皇子。突然走られては困ります。」
「…」
皇子はその問には答えず私を睨んでいる。
ジャバジャバと水音がして何かが私と皇子の間に入った。スズだった
「すみません、どなたか存じませんが姫様に何か御用でしょうか?差し支えなければ私がお伺い致します。」
小柄なスズが背の高い皇子に向かっている。よく見ると小さく震えている。
見ただけで高貴ってわかるもんね。
スズってば、あんなに水に入るの嫌がってたのに私を守るために来てくれたの?
「皇子、何事ですか?」
お供がもう一度問う
皇子は溜息をついて一言
「剣が騒いでいる」
「剣が?」
皇子は腰に下がっている鞘から剣をゆっくりと引き抜いた。
剣は光を放っていた。
「これはどういうことだ」
近くにいたオバア達は腰を抜かし川の中に浸かっているし
川岸にいる兵士たちにも見えたのかざわざわしている
「剣が私をこいつの前に連れてきた。だからお前は誰だと聞いた。」
なるほど。良くわからん。
「驚かせて悪かった。この方は小碓命、大王の皇子です。私はタケヒノムラジといいます。」
お供の一人がそう言って頭を下げた
「ご丁寧にありがとうございます。この方は尾張の大連の娘、ミヤズヒメです。わたしはスズと申します。」
スズが頭を下げる
皇子はその間も私を睨みつけ、皇子が掲げた剣は絶え間なく光を放っていた
スズは私に向かって
「ヒメ」
と一言
しょうがない
私は無言のまま皇子から剣を受け取る
剣は一瞬今までとは比べ物にならないほど光り輝くとすぐに光を失った
私はその剣を皇子に返す
「どういうことだ?」
皇子は私に問う
「わかりません、全ての事象に答えが有るとは限りません。」
私たちは睨み合う
「姫様は巫女ですから神聖に剣が反応したのでしょう」
スズが気を利かせて答える
「そうか、お前がタケイナダネの妹か」
そう言って今まで怖い顔で睨みつけていた皇子は急に親しげに微笑んだ
何こいつ?
なんで笑ってんの?
しかもなんか神々しく微笑んでない?


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