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オグナ 小説(2)


↑ここまでのお話

出会い


 初夏の日差しが川面をキラキラと輝かせている
私はふくらはぎまで水につけて布にする麻を灰汁に漬けて叩いたものを洗う作業を手伝っていた
「姫さまやめてください。日焼けしてしまいます。」
川岸でお供のスズが叫んでいる
「スズもおいでよ。気持ちいいわよ。」
彼女は足を濡らして私を川から引き出すことまではしたくないようだ
灰汁に浸かった麻を水に晒すと白い繊維が現れる。それを乾かしてまた灰汁に漬けて叩いて洗って乾かす
繰り返すことで白くて柔らかい糸ができ、それを織ることで布ができあがる
葛やしなの木や苧(カラムシ)そういった布が主流
絹は蚕という虫が吐く糸からできるらしい。高級品だ。
私は尾張の国造の惣領姫で
筆頭巫女
家に行けば確かに高級品に囲まれている。
だけど地位のあるものはそこにあぐらをかいてはいけないと思うし
知ることはとても楽しい
私のできることなんて些細な事だし、もしかしたら仕事の邪魔をしているだけなのかも知れないけれど
「暑いわね」
手を止めて腰をグイッと伸ばす
まだ夏の始まりとはいえ日の下での作業は大変だ
顎の下の汗を右手で拭う
少し休憩を取ったほうが良いか
「姫さま、あそこ。」
隣で作業していたオバアが指を指す
遠くから街道を近付いてくる一団がある
いかめしい兜と鎧を着けている
「ああ」
皇子が来ると兄が言っていた
兄の建稲種(タケイナダネ)は尾張大連の将
大王の信も厚く、確か請われて皇子の東征に付き従うと言っていた
ザワザワ
規則正しい歩みで近付いて来ていた一軍が急にざわめきだした
「お待ち下さい、皇子!」
一人だけ違う兜の男がこちらに向かって走ってくる
後を3人が追いかけてくる
ジャバジャバ、バシャバシャ、
鎧が濡れるのをものともせず川に入り足早やに私の前まで来るとその男はこう言った
「お前は誰だ?」



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