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ジョバンニが活字を拾うかの如く。

それはきっと、彼の中にある宇宙からひとつずつ、大切に、間違えないように言葉を選ぶための準備。


気持ちの入っていた2021シーズンは、彼にとって一番歯がゆいシーズンになった。観ていたサポーターとしてももちろん同じ思いだったけれど、サッカーを愛してサッカーとともに生きてきた選手にとって、プレーすることを奪われるのは、とてもじゃないけれど想像できないくらいに辛い日々だったのではないだろうか。

私は大島僚太という選手のプレーが好きだ。
想像のつかないところから出てくる正確なパスも、ボールに意思があるような軌道でゴールに向かうシュートも、ボールを持っていない時の立ち位置も、全てにサッカーが宿っている。
彼が現役である時に、自分がサッカーを好きで、川崎フロンターレが好きで、スタジアムやテレビを通して彼を応援できる環境である、この偶然に感謝したい。


彼がインタビューを受けている時、よく斜め上を見ながら話しているのを目にする。頭の中に渦巻くたくさんの情報を丁寧に確実に伝えるために、ひとつひとつ言葉を選んでいるんだろうなと思う。
その様子を見ていると私は、昔よく読んだ物語の主人公を思い出す。

宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」の主人公ジョバンニは、病弱な母を支えるために学校終わりに活版所で仕事をしている。今のようにデジタルのない時代は、1字ずつになっている活字の版を集めて、並べて、インクを付けて紙に刷る、という手順で新聞やチラシを作っていたのである。
その1字ずつを集めて担当の人に渡す、という仕事の様子が物語の中で描かれている。

その後、ジョバンニは親友カムパネルラと銀河鉄道に乗り星空の中を旅する訳なのだが、その宇宙のイメージとジョバンニの丁寧で真面目で真摯な印象が合わさって、大島選手に重なって見えるのだ。
広大な宇宙に浮かぶたくさんの文字のイメージと、その中から丁寧に選んで言葉を紡ぐ彼がふと斜め上を見上げて、文字を選んでいる姿を見る度に。


サッカー選手にとって、足の怪我は職業病ともいえるし、一度怪我してしまうと常に再発の恐怖に囚われてプレーすることにもなる。それでも何度でも戻ってきてくれるところに、彼の選手としての強さと意地を感じる。
そして、私たちは何度でも、戻ってきた彼のプレーに目を奪われる。

たとえ再び立ち止まることになったとしても、またひとつずつ積み重ねていけばいい。ジョバンニが活字を拾うかの如く、彼が言葉を紡ぐかの如く。
その紡いできた言葉たちは彼や、彼の周りの選手たちに確実に根付いていることを、私たちはまさに今、目の当たりにしている。


今シーズンこそ。その瞬間をもっともっと、たくさんのサッカーファンに伝えたい。
躍動する背番号10の姿を、彼のプレーに沸くスタジアムを想像する度に、私は、ワクワクせずにはいられないのだ。




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