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#1 高齢者福祉のための音楽療法のすすめ

―高齢者福祉のための音楽療法プチ講座―
音楽は聴いて楽しむだけではなく、活用の仕方次第で健康に役立ちます。
音楽の特性を理解し、研究し、人の心と身体の問題を音楽によって解決していくために「音楽療法」という分野があることをご存じでしょうか。
「高齢者のための音楽療法プチ講座」は高齢者福祉という視点から音楽の持つ力について、ご紹介します。


「音楽は日常にありふれている」

音楽が好きという人は非常に多いのではないでしょか。
趣味として聴く人も仕事として演奏活動する人もプロ、アマ問わず、たくさんいるし、テレビやラジオ、ショッピングや食事にお店に入っても、音楽がないところはほぼないくらいに、日常は音楽で埋め尽くされています。

そして、人は音楽に心動かされ、いろんな気持ちを思い起こします。

さて、タイトルにある通り、皆さんは音楽療法という職業があることをご存知ですか。

私はこれまで10年以上、音楽療法士として活躍し、多い時には年間200回以上の音楽療法を実施してきた。延べ人数にして3万人以上の方に音楽療法をしてきたことになります。

にもかかわらず、まだまだ音楽療法を知らない人が多く、音楽療法って何なの?と疑問を持つ人が多いのが現状です。

音楽療法を簡潔に言うと「私たちの健康や生きやすさのために音楽を意図的、計画的に使っていこう」というもの。

今、日本で一番大きな団体は「日本音楽療法学会」というところになり、そこでは音楽療法について、以下のように定義が掲げられています。

日本音楽療法学会 音楽療法の定義
「音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて音楽を意図的、計画的に使用すること」

つまりは、音楽の持つ様々な特性や働きがあり、それらをセラピーのツールとして利用することで、心身の健康や、生きやすさなどに音楽を役立たせていこうとすることが音楽療法というものなのです。

また、音楽療法には大きく分けて3つの分野に分かれています。

1.障がい児、障がい者領域での音楽療法
2.精神科領域での音楽療法
3.高齢者領域への音楽療法

そして、上記の3つの分野はそれぞれ、医療的側面と福祉的側面がり、目指す目的が異なったり、技法や関わり方が異なるが、音楽の使い方が異なるだけで「健康や生きやすさのために音楽を意図的、計画的に使っていこう」という根本的なことは変わりません。

「高齢者に役立つ音楽療法」

例えば、音楽は人の心を癒したり、躍動させたり、過去の思い出を懐かしんだりするといった心を動かすことが得意であり、高齢者にとっても、そういった心動く時間を持つことは認知機能の維持や、脳の活性化、社会性の維持・向上、残存機能の向上などに作用し、介護予防や認知症予防が期待できます。

そして、音楽はコミュニケーションであり、娯楽の要素を持っています。
音楽療法の参加者は楽しみながら音楽療法に取り組むことができ、同時に高齢者の方々にとっては特にQOL(生活の質)の向上に貢献するのです。

ただし、ここで一つ注意が必要です。
音楽療法は1回限りではその変化が得られにくく、継続的に行うことが非常に重要とされているということ。
そのため、中、長期的な目標を立てた上で、目標達成に向けてプログラムを作り一回一回、音楽療法を提供していくことになります。

中・長期目標例(一例)
「楽しいという時間を継続して行うことで、参加意欲を高め、孤立を防ぐ」
「音楽による集団活動を通して、社会性の維持、向上を図る」
「グループ内で共通の話題での会話を音楽をきっかけに促進する」
「懐かしの音楽により、回想を深め、自尊心の回復、向上を目指す」
・・・など

このように音楽療法は高齢者にとって、楽しいだけではなく、社会とのつながりの維持や心へのアプローチを可能にし結果、介護予防や認知症予防が期待できるのです。

「音楽療法ができる3つのこと」

1. 気分が乗らない時でも、手軽に身体を動かすことができる
2.脳機能の活性化
3.みんなで一つのことをしているという一体感をもつことができる


たった15秒でいいので、イメージしてみてください。

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買い物帰り、足腰の痛みを休めるために座ったべンチでふと思う・・・。
「あれから何十年経っただろう・・・・・。」
連れ添った夫(妻)に先立たれ、気づけばあなたは70代も後半。
足腰が悪くなり、動くと痛みが走るので、どこにも行く気力はわかず、最低限の買い物以外はただただ一人、家で過ごすようになりました。
昔はあんなに暇つぶしにいじっていたスマホも、時代の変化であまりにも操作が複雑になってしまい、どう操作していいかわかりません。
ついには、ただただ電話をするためだけにスマホを持つようになりましたが、この3カ月、電話が鳴ったのは1度きり。
ただただ雲が流れている様子を眺めることが増えました。。。

・・・どんな気持ちになるでしょう。
極端な話だと思うかもしれないが、隣に誰が住んでるかもわからない都会では、こんな話が現実にざらにある出来事であり、社会と疎遠になって孤独を噛み締めている高齢者は少なくありません。

「音楽療法は日常の刺激になる」

だから、気分が乗らなくても手軽に身体を動かすことはとても大切だし、刺激が少ない脳みそを一生懸命に使って活性化することも大切、そして、毎日が一人だと辛いから、「ちょっとみんなで楽しめる」とか、「ちょっとした達成感が味わえる」とか、そんなことが生きていく中でとても重要となることは容易に想像できます。

音楽療法は多くの場合、いろんな活動を組み合わせたプログラムを1時間実施しますが、上記の全てを網羅することができます。

音楽療法を受けると・・・
みんなが楽しめる音楽の空間にいることができ、身体を動かしやすいリズムで楽器を鳴らし、みんなで夢中になる、最後は音楽の空間がみんなで作り上げられた熱気に包まれる。

そして、帰り道に余韻にひたる・・・。

継続して取り組むため、次回まで楽しみを持ち続けることができる。

音楽療法は中・長期の目標を定め、継続的に行うことから、受ける側にとっては毎日の意欲や積極性、生きがいを感じやすく、自信を持つことができたり、友達ができたり、そんな日を過ごすことができるようになります。

まさに意図的、計画的に・・・。

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「高齢者施設では部屋から出てくることが期待される」

普段、部屋の中やベットで一日を過ごしている方にどうやって動いていただこうか、、、、と悩まれる施設は多く、もちろん理由はこれだけではないですが、レクリエーションを熱心に取り組んでいる施設は近年増え続け、レクリエーションの豊富さを売りにしている施設もあるくらいです。

最近は「高齢者の孤独」が社会的課題として挙げられていますが、コミュニケーションをとることが、脳機能的には非常に重要とされています。
脳への刺激にも、心理的な刺激にも、まずは人のいるところに出てきてもらう、そして、人と関わりを持っていただくことが求めらているのです。

このような時に、人と人をつなぐために届けられる音楽療法はとても重宝するでしょう。

超高齢化社会を迎えた現在だからこそ、お年寄りのための音楽療法が特に注目を集め、QOL(生活の質)の向上や、生きがい支援、また予防医療や予防介護の一環として、重要な役割を担っていることは間違いありません。


「音楽療法のすすめ」

あなたがもし、音楽を演奏される方であれば、断言します。
あなたの奏でる音楽は人の心を動かし、活力を与え、毎日を明るく楽しく、笑顔を作ることができます。
音楽の世界はそれでお金を得ようとすると、非常に厳しい世界です。
いつまで夢を追いかけるのか、いつまでこの生活を続けていくのか、不安を感じながらも音楽から離れられない人が山ほどいることでしょう。
少し視点を変えて、音楽を聴いてもらうのではなく、音楽を届ける音楽療法という仕事をすることで、音楽に関わる仕事の幅を広げることはいかがでしょうか。
音楽療法という世界に少しでも興味をもっていただけたら、世の中はもっと音楽で溢れ、音楽が活かされる世界になるのではないでしょうか。

あなたがもし、介護経験者であれば、音楽をもっと介護に活かしてみてはどうでしょう。
例えばCDを流すだけでも、相手の雰囲気は変わるし、一緒に歌を歌うことで「家に帰りたい」から「あの頃、私はこんな楽しいことがあったのよ」と話しが変わることだってあります。音楽を活かすことができれば、目の前の怒っている人が気が紛らわされ笑うようにもなります。
そうすれば、認知症の人は徘徊が減るかもしれません。
どんよりした重い空気の部屋の中が、ほんの少し明るくなるかもしれません。

音楽療法は音楽療法士が実施することが一般的ですが、音楽療法士が使っている音楽の特性のほんの一部を知ることで、介護は楽になると私は信じています。


【 音活研究部 ― 投稿者 】
Leaf音楽療法センター
センター長 武知 治樹
日本音楽療法学会認定音楽療法士 / 公認心理師
フリーランスとして高齢者や障がいを持った子供たちへの音楽療法に携わる傍ら、心理カウンセラーとしての活動を経て、2014年よりLeaf音楽療法センターの運営に従事。現在も音楽療法の現場を回りながら音楽療法士のサポートと音楽療法の啓発活動を行っている。

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