ル・グラン・シリュス

想いのままに筆を走らせたいと思っています。 多くの人に読まれなくてもいい、自分の言葉で…

ル・グラン・シリュス

想いのままに筆を走らせたいと思っています。 多くの人に読まれなくてもいい、自分の言葉でたった一人でも、ほんの少しでも救われる人がいてくれたらいいなとか、 助けを求めている人のもとに届いて寄り添えるようなそんな言葉を紡げたらなと思っています。

最近の記事

リセットマラソン

 「はぁ、はぁ。きつい、ゴールはまだか」  額から滝のように垂れてくる汗を拭いながら、手首にしっかりと巻き付けられている重厚な作りのスマートウォッチに目をやると、ゴールまであと十㎞、残り時間四十分という表示が出ている。  「くそぅ、ギリギリ間に合うか。頼む、おれの身体、もうちょっと速く動いてくれ。これで壊れてしまってもいい、頼む」  そう叫びながら必死に手を前後に振り、一歩でも一秒でも速く前に進もうとする。  足が言うことを聞かなくなってきた。意識がぼんやりとしてきた

    • 食う男

       しとしと雨が地面を濡らす夜。  結婚を考えていた彼女に別れを告げられ、行先も考えずに肩を落としながら夜道をふらふらと歩いていた。  彼女とは大学を卒業してからの長い付き合いで、お互いに結婚を意識して同棲をしていた。最初のほうこそ良かったものの、次第に日々の小さなことから喧嘩が増え、すれ違いが起きてしまっていた。当然の帰結とはいえ、楽しかった思い出も多く、長く寄り添った彼女といざ別れるとなると少し切ない気持ちがあった。  おまけに仕事もうまくいっていなかった。上司からは

      • 片割れの相棒

         ついこの間、わたしは離婚した。  夫とは背丈や服装、顔つきなど外見的な部分だけでなく、価値観や考え方までかなり似通っていた。一心同体というか、前世で同じ兄妹だったのではないかと思うくらいには偶然にもあらゆる点でほとんど同じだった。そういう意味で、何をするにしても阿吽の呼吸で居心地がいいし、いつもしっかりとお互いに向き合っていたし、分かり合っていたつもりだった。  ただ一つだけ、唯一にして決定的な違いがあった。  それは、どこに出かけてもそれぞれ行きたいところが違い、すぐ

        • 裏メニュー

           「アイスコーヒーのホットをください」  木目調のインテリアで統一された空間に、ジャズの音色が漂う居心地の良いカフェで、ぼくはいつもと同じものを注文したはずだった。  「アイスコーヒーのホットですね。サイズはいかがいたしましょうか」  店員さんの注文の復唱を聞いて、後ろに並んでいた女性がクスクスと笑った。その笑い声を聞いてふと我に返った。  「あれ、えっと、じゃあレギュラーサイズで」  アイスコーヒーを注文したはずだったが、ぼーっと考え事をしながら注文していたため自分が言い間

          生活ループ

           朝起きて、寝ぼけ眼のまま携帯に手を伸ばす。  液晶画面から刺すように届く刺激的な光に目を細めながら、出掛ける時間まで少し余裕があることを確認すると、もう一度寝るか携帯をいじるか一瞬迷うも、結局SNSをチェックする。  同僚の結婚して子供が生まれた報告とか、後輩が彼氏と旅行に行った投稿とか、そんなくだらない他人の幸せを見ていると、あっという間に時間が溶けるだけでなく精神も疲弊してしまう。そんなことに虚しさと切なさを感じながらも、布団から重い腰を起こし少しふらつくその足で洗面所

          中毒

           ネオンライトが煌々と輝き、夜の街を賑やかにする。まるで街灯に群がる昆虫のように、お店にどんどん人が吸い込まれていく。  件のお店はこの繁華街の中でも一段とひっそりしていて地味で目立たない、むしろ何かから隠れているかのようにすら見える不思議なお店だった。  「ここ、ここ。着いたよ」  最近元気のなかった友人が、お店に近づいたとたん別人のような張りのある声で言った。その友人が指し示すその指の先にお店らしきものは見えなかったが、どうやら到着したことだけは分かった。  友人の少し

          ボウズ

           あるところに、若くて真面目なお坊さんがいた。  このお坊さんは地元のみんなから「坊主」と呼ばれ、老若男女たくさんの人に愛されていた。真面目も大真面目。モテたいとかお金持ちになりたいとか、日々欲にまみれた暮らしをしている人々と違い、私欲は一切なく日々慎ましく丁寧な暮らしをし、まさにお坊さんの鏡のような生活を送っていた。厳しい修行を耐え抜き、見事に欲望を浄化させたと言わんばかりに煩悩の一かけらさえ見せることはなかった。  そんなお坊さんにもただ一つ、娯楽といえるものがあった。

          ペット

           ほんのりとアルコールの匂いが車内に漂っている電車に揺られ、いつものように家に帰る。  玄関を開け、誰もいないリビングに向かって発する「ただいま」という声がフワフワと空気中に漂うのを感じながら部屋に入ると、リビングにつながるドアの隙間から電気が漏れているのが見えた。家を出る時に消し忘れてしまったかと思い、よく妻に注意されていた昔のことがふとよみがえってきた。  妻や娘と別居してから早十年が経つ。  月日の流れは時のように早く、手をつないで一緒に小さかった娘もいまや高校生

          きぼう

           街灯のない暗い夜道をうつむきながら歩いていると、ふと目の前に光が差し込んできた。  きらきらとしていてじっと見入ってしまうほど美しいその光は、私をからかっているかのように私の少し前をゆっくりと、私の歩調に合わせて徐々に遠ざかっていく。  わたしはその光に目を奪われ、どうしても手に入れたいという強い衝動に駆られ、いざ手に掴もうとしてはや足になる。  わたしのはや足に呼応して、次第に光も速く遠ざかる。  光を追いかける足は更に速くなり、いつの間にか走り出している。  

          人生はいつも晴れ模様

          人生においてたった一つの不満もないというのは誰にとってもあり得ない話だろう。 人間は誰しも、大なり小なり不満を抱えて生きている。 たとえどんなに表舞台でキラキラと輝いているようあの人も。 いつもたくさんの人に囲まれて、充実していそうに見えているあの人も。 抱えている不満の大きさも、数の多さも違えども、 当然のことながら私も持っているし、あなたも持っているだろう。 では、ここであなたに一つお聞きしたい。 あなたはこの”不満”に対してどのように対処されていますか? 一

          人生はいつも晴れ模様

          きっと、大丈夫

          こんなに頑張っているのにどうして報われないんだろう。 頑張っているのになかなか望む結果をつかめないー。 そんなことは人生において数えきれないほどあるだろう。 唇から血が出るのも気づかないくらいに強く思いっきり噛みしめる。 こぶしを強く握り、爪が手のひらに食い込む痛みも忘れるくらいに、 悔しくて悔しくてたまらない。 やり方が間違っているのか。そもそも量が足りないのか。 本当にこのままのやり方でいいのか。 押し寄せる不安の波にのまれて、 いっそ諦めてしまおうかと打ちひしが

          生きることは辛くてしんどい

          生きることが辛くてしんどくて、諦めたくなる。 わたしは生きている意味がない。世の中に必要とされていない。 ずっと信頼していた大切な人に裏切られたとき。 目標に向かって必死に努力してきたけど、望んでいた結果をつかめなかったとき。 全力で頑張っているのに、誰にも認めてもらえないとき。 なんで私だけこんなにつらい思いをしないといけなんだろう。 なんで何をやってもうまくいかないんだろう。 希望を失って、全てを投げ出したくなる。 自分の不遇を呪いたくなることもあるだろう。 で

          生きることは辛くてしんどい

          わたしはだれ?

          自分のことは自分が一番よく知っている。 色んなところで言われている通り、これはおそらくほとんど真実であると言っても違和感はないだろう。 ただ、一つ注意したいのは、あくまで自分以外の他人と比較して自分を一番知っているのは自分だということである。 ”ニコイチ”と言うようにいくら日中ずっと一緒に過ごしている親友でさえ、生涯長くをともにしてきたパートナーでさえ、頭の中で考えていることや感情の機微まで、当人よりもわかるということはないだろう。 他人よりも自分のことを知っているとは

          自分の人生に主導権を

          みなさんは人が一日に何回決断をしているかご存じでしょうか? 決断回数に関する研究については諸説ありますが、平均的な成人の一日の決断回数はなんと、”35,000回”にのぼるとことです。 こんなに決断しているんだと驚いた方、本当にこんな回数なのかと疑われる方、様々いらっしゃるかと思います。 これを書いている私自身も、一日の中でこれだけの回数決断しているとはなかなか思えませんが、 目が覚めてもう一度寝ようとか、もうさすがに起きようとか、お昼何食べようとか、トイレに行こうとか、

          自分の人生に主導権を

          本日は、お日柄もよく

          原田マハ著「本日は、お日柄もよく」を読んで。 ”安定した仕事で幸せになるのもいい。けれど人を感動させ、幸せにする仕事に就けるのはもっといい。” ”言葉で人を熱くし、心を動かしてみたい。” ”変わらなくても満足ならば、あえて変わる必要はないだろう。けれど、よりよく変わるならば、変わったほうがいい。変えるべきことがあるのならば、変えなければならない。” ”困難に向い合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。三時間後の君、涙がとまっている。二十四時間後の君、

          本日は、お日柄もよく

          あなたにとっての人生の宝物は?

          事件や事故にも巻き込まれず、大病もせず健康で平和に暮らすことができている。大切な人たちが健やかに生きている。 一見平凡そうに見えるこんな毎日がいかに恵まれているか。このことに自分も含めて気づいていない人が多いような気がする。 人はいつ、何が原因で死ぬかわからない。 このまま続いていく毎日が、当たり前だと思っていた日常が崩れさる日は、あまり考えたくないが、きっといつか必ずやってくるのだろう。 しかし、この世の中に生きていると、そんな平凡そうな毎日の幸福さに気づくことはな

          あなたにとっての人生の宝物は?