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#15 会社を辞めて15カ月、ようやく「開業届」と「青色申告」を提出


■人生初の税務署も、書類の提出はほんの一瞬


昨年3月に会社を退職し、1年3カ月が過ぎました。今後の働き方を友人や知人に相談したり、シニア向けの就職セミナーなどを受けたりする中で、1つはっきりしたのは「会社には属さずに個人で働きたい」という点です。フリーランスが長い友人にその旨を伝えると、即座に「それなら開業届を出しておきましょう」ときっぱり言われました。「開業届か・・・」と思いつつしばらく保留にしていましたが、6月に税務署へ赴き「個人事業の開業・廃業等届出書」と「所得税の青色申告承認申請書」を提出、晴れて個人事業主となりました。


看板に “この社会あなたの税がいきている” の文字



3月の確定申告はオンラインで済ませたせいか、提出した実感がなかったので、今回はあえて税務署へ行ってみることに。日頃から税務署の前はよく通りますが、中へ入ったのは初めてです。総合案内で「開業届を提出しに来ました」と伝えると、「はい、こちらで承ります」とのこと。「え、ここで?」と一瞬戸惑いましたが、先の書類と氏名と連絡先を記入した紙を提出し、マイナンバーカードを提示します。窓口の担当者は、『控用』の用紙に「文書収受」の判子を手早く押し、「はい、こちらがお控えになります」で終了。時間にして1~2分だったでしょうか。記入内容のチェックもなく、アッと言う間に終わりました。

開業届の「職業」「屋号」「事業の概要」の欄は、それなりに試行錯誤しながら書いたので、何か質問されたらどうしよう?とやや身構えていましたが、全くのスルーで拍子抜けでした。特に「職業」の欄は「客観的に分かる名称であれば何を書いても構わない」そうで、その自由さが逆に悩ましいです。“こんな仕事を始めたい”という段階ながら、「〇〇〇業」と記入し、少しだけ具体的な内容を「事業の概要」にも書いておきました。こうして無理やりにでも文字にすると、面白いことに小さな覚悟が生まれ、そこを目指して進んでみよう!という気持ちが以前よりも強くなった気がします。


■「雇用者数」と「自営業主・家族従業者数」の割合はおよそ9:1


出所:総務省統計局「労働力調査」(2023年1月)



ところで、企業に属さずに個人として働く人は、全体のどの位の割合を占めているのでしょう? 久しぶりに総務省統計局の「労働力調査」(2023年1月)のデータをチェックしてみました。

まず、2022年平均の就業者数は6,723万人で、前年に比べ 10 万人増加しています。男女別にみると、男性は 3,699 万人と 前年より12 万人の減少、女性は 3,024 万人と 22 万人の増加です。2012年の女性の就業者数は2,658万人ですから、この10年で約13,8%も増えたことになります。一方の男性は10年前との比較では2,1%増に留まり、2019年をピークに減少傾向が続いています。


出所:総務省統計局「労働力調査」(2023年1月)



次に「雇用者数と自営業主・家族従業者数」のデータ見てみましょう。就業者数6,723万人のうち、雇用者数は6,041万人で全体の89.9%を占めています。自営業主・家族従業者数は648万人で、就業者数の約10%であることがわかります。時系列にみると、雇用者数は微増傾向、一方の自営業主・家族従業者数は微減傾向にあります。ここしばらくは「開業届」や「青色申告」の情報に触れる機会が多かったせいか、自営業って意外に多いのかと思いきや、実際の数値でみると働く人の約1割。「定年延長」がより進めば、企業に属している人の割合がさらに増えていくのかもしれませんね。

周囲にも、60歳で一旦退職をして再雇用という形で同じ会社で働き続ける人、さらには65歳を迎えてもなお契約社員や業務委託の形で働き続ける人も少なくありません。「定年延長」に関するアンケート結果をみていると、「定年延長」には概ね賛成でも「70歳は延長しすぎ」という声も多いようです。また「定年延長」をきっかけに自らのキャリアプランを見直して、起業やフリーランスで働くことを検討するという人もみられます。雇用期間の延長と年金の関係も何だかプラスとマイナスがあるようで、そのあたりも微妙に関わってきそうです。


■10月スタートの「インボイス制度」、登録はひとまず保留に


「開業届」と「青色申告」の話に必ず出てくるのが、「インボイスはどうする?」です。今年の10月から「インボイス制度」が始まります。説明書には、「適格請求書(インボイス)とは、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるもの」とあります。「消費税の免税事業者は、登録番号が発行されず、インボイスが出せません。そのため、取引先や親請け、業務委託元から取引を断られたり、課税事業者になるよう求められたりすることが懸念されます」と説明されても、今ひとつピンときません。


税務署でもらったインボイス制度の資料



メディアにはインボイス制度についての様々な意見があふれています。「インボイスに登録して課税事業者になると1カ月分の所得を失う」「フリーランス潰しのために作られたものだ」と敢然と抗議する記事があるかと思えば、「経過措置があるから、様子見ですね」という声も。「インボイス制度が始まるのは決まったこと。きちんと受け入れ、フリーランスへのケアを考えるべきでは」というスタンスの人もいます。いずれにせよ、自分自身がどのような形で仕事を引き受けるかなど、具体的に見えてきた時点で考え直そうということで、登録はひとまず保留に。

書類提出に行った際、税務署の看板に書かれていた「この社会あなたの税がいきている」のフレーズが思い出されます。社会に出てずっと企業の中で働いていた身には、納めている税と社会の繋がりはどことなくあいまいでした。所得税も住民税も月に1度の給与明細で金額をチラリと目にするだけで、退職してから健康保険料や住民税の納付書を目にして初めて「こんなに払うのね~」と驚く始末。今回の「開業届」と「青色申告」の提出を通して、“あなたの税”つまり“私の税”がこの社会でどう使われているのか、もっと知らなくてはと強く思った次第です。

文・藤本真穂 
株式会社ジャパンライフデザインシステムズで、生活者の分析を通して、求められる商品やサービスを考え、生み出す仕事に従事。女性たちの新たなライフスタイルを探った『直感する未来 都市で働く女性1000名の報告』(ライフデザインブックス刊/2014年3月)の編纂に関わる。2022年10月に60歳を迎えたのを機に、自分自身の働き方や生き方を振り返り、これからの10年をどうデザインするかが当面の課題。昨年3月、60歳まであと半年を残してプチ早期退職、37年間の会社員生活にひと区切りした。