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#12 からだで覚えた土のある暮らし。昨年4月スタートの『野菜づくり講習会』が終了



■重い鍬(くわ)、酷暑での畑作業・・・想像以上のハードワーク


昨年4月から参加した世田谷区の『野菜づくり講習会』が、2月4日で終了しました。1月中にすべての収穫を終えたので、畑にはもう何もありません。堆肥を撒いてきれいに整地された畑を前に、「今日で終わりだね~」と誰からともなく声がもれます。最終回の作業は、来年度のメンバーが収穫するじゃがいも(キタアカリとインカのめざめ)の植え付けです。鍬(くわ)を持って畑に入り、畝(うね)を作り始めると「あれ~、なんだかずいぶん慣れたね~」と指導員の農家さんの明るい声。確かに、どのメンバーも始まった当初に比べると鍬の扱いにほんの少しだけ進歩がみられます。


初めて張ったマルチシート(次太夫堀自然体験農園:世田谷区喜多見)


4月の初回は、まず鍬の使い方を学びました。いきなり畑に入って鍬で土をすくおうとしますが、なかなか言われたようにはいきません。「腕だけじゃなくて、からだ全体を使って!」「足の向きは畝に直角に!」と、少々厳しい指導を受けて、ちょっと凹みました。私はとにかく鍬の重さにびっくりして、ふり上げた鍬をまっすぐ土におろすのにひと苦労。「今日はずっと鍬で畝を作るのかな?」と思っていると、できあがった畝にマルチシートを張る作業が待っていました。黒いシートの両端を2人で持ちながら、中腰で張っていく作業も足腰にはなかなかの負担です。「あ~、体力もつかなあ・・・」と、ちょっぴり不安を抱えながら初回の講習会を終えました。


トマトやピーマンなど夏野菜の収穫は、暑さとの闘い!


4月、5月には、ごぼう、にんじん、サニーレタス、ナス、トマト、ピーマン、ズッキーニ、枝豆、サトイモ、サツマイモなどを次々に植え付け、6月になるとナス、トマト、ピーマンなどの夏野菜が、毎回すべて収穫しても、その次の回には同じぐらいの量がまた採れます。7月、8月は厳しい暑さの中での作業だったため、水分補給や休憩をたびたびとっても、かなりの疲労感。それでも収穫した野菜が並ぶと、やや疲れが和らぎます。毎回山のような野菜を抱えて自宅に帰りつくと、野菜の泥を落としたり、根っこなど食べられない部分を切ったりと、野菜と向き合う時間がしばらく続きます。11月頃になると、ようやくサツマイモ、ネギ、大根が、12月にはキャベツや白菜が収穫のシーズンを迎えました。


■農家さんが畑でつぶやいた “農の課題”


世田谷区の『野菜づくり講習会』は、区の都市農業課とJA東京中央が運営する事業です。事業の目的は「区民が農家の指導のもと、農作業体験等を通して土とふれあい、都市農業への理解を深めていくこと」と「この講習会を通じてより専門的な農作業技術の習得と、農家の農作業の支援を行う農業サポーターの育成」の2つです。毎回の農作業を教えてくださるのは、JA東京中央の青壮年部の農家さんで、毎回4~5名が担当します。のべ30名ほどの農家さんが交代できてくださったので、40代のリーダー的な農家さんから20代の若い農家さんまで、様々なキャラクターの方と接する機会がありました。

ちょっとした作業に右往左往する私たちをみて、「いいなあ、たくさん人がいて。今日ぐらいの作業だと、うちは2~3人でやるからね~」とつぶやく農家さんからは人手不足の現状を、「種芋の値段が今年は倍!じゃがいもはもうやめようかな」と嘆く農家さんからは、種や堆肥の高騰と直に向き合っていることを実感。それでも、さほど深刻な空気はありません。教えてくださった農家さんは、時に厳しい言葉もありましたが、基本的に明るい方ばかり。収穫期は「収穫と出荷で大忙し!2時からマルシェがあるので、買いにきてね~」とか「世田谷公園で野菜の品評会があるので、ぜひみにきてください」など、野菜と触れられる機会をたびたび紹介してくださいました。


野菜で作られた宝船『世田谷丸』(世田谷公園)


世田谷公園(世田谷区池尻)では、毎年11月に「世田谷の花展覧会/世田谷区農業祭」を開催。農家さんのおすすめもあり、私も昨年11月に初めて行ってみました。野菜で作られた宝船『世田谷丸』は、白菜、ブロッコリー、カリフラワーなど様々な野菜が美しくデザインされています。「野菜の宝船」は、商売繁盛の縁起物として、新嘗祭をはじめ、五穀豊穣を祝う祭りやイベントに奉納されてきたもので、江戸時代に神田市場の若い衆が、大根やにんじんなどで宝船を作り、店先に飾って新年を祝ったのが始まりだとか。この他、品評会で入賞した野菜が並ぶブースへ行くと、アートのような野菜の美しさに圧倒されました。


■農に関わりながら、今後も続けていきたい“土のある暮らし”


『野菜づくり講習会』の定員は30名。4月から最後まで継続して参加したのは24~5名。コロナ前は7月と12月に「収穫祭」を開催し、採れたて野菜を畑で食べながら交流をはかる時間があったそうです。しかしながら、コロナ禍でそうした機会は残念ながら持てず、きちんとした自己紹介もしないまま最終回を迎えました。「同じ釜の飯を食う」ではありませんが、「同じ土を耕した同志?」とはこれからも繋がっていたいもの。最終回が終わると「せっかくだから記念写真を撮ろう!」とパチリ!そのままお互いのLINEの交換が始まりました。早々にLINEグループができあがり、送られてきた写真をみて「初めてマスクのない顔みたね~なんか新鮮だ~」という感想が思わずこぼれました。


収穫した野菜を人数分に分ける “お宝分け”の時間


LINE上での自己紹介では、「引き続き農業に携われる機会を作りたい」「農業ボランティア的なことをやってみたい」「農業サポーターに申し込むつもり」「八ヶ岳へ移住し、畑をやりながら自然食品店を開く予定」などなど、農業との関わりをこれからも続けていくという声が次々とあがります。「農業サポーター」とは、営農が一時的に難しくなった農家さんを支援するために世田谷区が2007年に始めた制度です。『野菜づくり講習会』への出席が規定以上であれば、希望者は「農業サポーター」に登録できるので、私も登録する予定です。

月に2~3度、土曜日の9時からお昼前まで、畑で土に触れる時間は私には極めて貴重なものでした。農家さんと直に話せることや、畑や野菜に興味のあるメンバーとの繋がりが生まれたことも大きな収穫です。そして、何よりも自分自身のからだを使って、鍬で土を耕し、様々な野菜を植え付け、収穫が終わると堆肥を撒いて再び土を整えたという体験が、様々な新たな気づきを私にもたらしてくれました。“土のある暮らし”は、これからも続けていきたいので、4月から始まるいくつかの農のプログラムにエントリーしようと思っています。

文・藤本真穂 
株式会社ジャパンライフデザインシステムズで、生活者の分析を通して、求められる商品やサービスを考え、生み出す仕事に従事。女性たちの新たなライフスタイルを探った『直感する未来 都市で働く女性1000名の報告』(ライフデザインブックス刊/2014年3月)の編纂に関わる。2022年10月に60歳を迎えるのを機に、自分自身の働き方や生き方を振り返り、これからの10年をどうデザインするかが当面の課題。昨年3月、60歳まであと半年を残してプチ早期退職、37年間の会社員生活にひと区切りした。