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「ヤマヂカラをもっとつけたい」。真岡にUターンして得た、自分軸の生きると働く

生き方や働き方などライフデザイン全域について、生活者とつながりながら研究している弊社では、自ら率先して新たな生き方&働き方を開拓しているメンバーも少なくありません。そのうちの一人を今回は紹介します。

彼女と私は2012年の1月に入社した同期。入社当時から同じチームで健康情報誌『セルフドクター』の制作や、ハワイライフスタイルクラブというクラブマーケティング事業に一緒に取り組んでいました。

彼女は小柄で控えめな雰囲気ですが、フラブームが起こる頃にはすでにフラダンサーとしての独自の表現を習得していたし、 “山ガール”という言葉が流行る頃にはすでに単独行で雪山を縦走していたし、ブームは彼女の後からやってくる(笑)。彼女が踊るフラを一度だけ見たことがあり、それがもう、伸びやかで情感があって素敵でした。情報感度が高い人というのがいるけれど、彼女はたぶん“身体感度”が高いのだと思う。今の時代に必要な何かを、頭よりも先に身体がキャッチして動いちゃっているみたいな。

そんな彼女は、コロナ禍でリモートワークが定着した2021年、東京を離れて生まれ故郷の栃木県真岡市へとUターン。彼女の生きると働くが重なるところとは? 今、夢中になっていることや、これから先をどう描いているのかについても聞いてみました。

久保雅子
株式会社ジャパンライフデザインシステムズ・ディレクター/編集者


植物を育てたり保存食を作ったり。丁寧な暮らしができるようになった

__真岡にUターンしてみてどうですか?

久保:なんだかんだでもう20年以上、人生の半分以上を東京で暮らしていたので、友だちもみんな東京。だから、地元に帰って友だちができるかどうかが心配でした。寂しくてすぐに東京に戻るんだろうなって。でも、その心配は全くなかった。地元の山岳会に入ったので、その人たちと毎週山に行っているし。あと、真岡駅周辺は開発が進んでいて、おしゃれな人とかが住み始めて面白くなっているんです。いいなぁと思っていたお店の人が、実は友だちの友だちだったりして、人が少ないから、すぐにつながっちゃう。

__そういう近さが、なんかうらやましい。

久保:いや、でも東京のほうが何かを始めようという時に情報もいっぱいあるし、それをやっている人も多いし、すぐに飛びつきやすいですよね。だから、東京にいた時のその感覚は鈍っちゃいけないって思う。コロナ禍だけど、東京に出て来る時はなるべく人に会うようにしてるんです。

__Uターンしようと思ったきっかけは?

久保:コロナ禍でリモートワークも進み、東京でなくても仕事ができる環境が整っていたのは大きかったですね。もともと田舎に住みたいという気持ちはあったんです。でも、全く知らないところに行く自信はなくて……。生まれ育ったまちだったら多少なりとも親戚や昔の友だちがいるし、ちょっと安心だったので、真岡に決めました。

__久保さんが、真岡でどんな生活をしているのか興味があるな。

久保:植物を育てるとか、保存食を作るとか、ずっとやりたかったことができるようになっています。仕事内容は変わらないけど、こっちに来て、心の余裕ができたことが大きいのかな。もともと田舎育ちだから、人がワーッといる東京の暮らしは、気づかないうちにストレスをためていたみたいで。ここは、むしろ人が少な過ぎて寂しいくらい。人から少し離れて自分を見つめ直す時間がとれるようになったから、いろいろなことにゆっくり腰を据えて取り組めるようになったんだと思います。

__充実した暮らし! 植物は何を育てているの? 保存食って何を作っているの?

久保:ハーブを4種類くらい。パクチー、ミント、ローズマリーとパセリ。秋植えをしたのですが、越冬できずに全部ダメでした。この春からもう一回やり直しです。保存食は梅干しとらっきょうとジャムを作っています。ジャムは旬のフルーツなどで毎月のように作っています。なにせここは東京と違っておいしいものがないから、自分で作るしかないんですよー。料理に使う時間が増えたのは、精神的にもいいですね。

真岡に暮らしてから作り始めた保存食


インタビューは人の生き方に触れられるから楽しい

__ところで、10年間一緒に働いていたのに一度も聞いたことがなかったけど、久保さんはなぜ編集の仕事を選んだの?

久保:もともと本を読むのが好きで、学生時代に詩とか小説とかを書いていたんです。将来は物書きの仕事をしたいと思って、編集プロダクションに入社しました。そこはパソコンとか機械関係の書籍を作っていたのですが、全然興味がなかった(笑)。でもそこでいろいろな経験をしていく中で、人にインタビューするのが好きなことに気づいて。それで、インタビューができる仕事を探して、この会社にたどり着きました。

人の話を聞くのが、すごく好きなんです。いろいろな人に会って、その人の言葉に感化されて動いたり。特にハワイライフスタイルの仕事では、毎月いろいろな人にインタビューして、その人の生き方に触れることができたので楽しかったです。

思い出深いインタビュー記事(ハワイライフスタイルクラブより)


「山力」をもっとつけていきたい。山を伝える仕事もこれからできるように

__久保さんが今一番、夢中になっていることって?

久保:相変わらず、山です。山力(ヤマヂカラ)をもっとつけたいと思っていて。

__ヤマヂカラ?

久保:いろいろと総じて「山力」と言っているんですけど、例えば、山に対する意識を高めるとか、山に登るための体づくりをするとか、資金力をつけるとかも全て「山力」なんです。山岳会の人たちと山に行くことで、いろいろ勉強になっています。

福島県いわき市にある青葉の岩場で岩トレ
谷川連峰を代表するクラシックルート、湯檜曽川本谷を遡行


__山の仲間って、特別な感じ?

久保:私たちって、命に関わるような危険なところにも行ったりするんです。でも、ここを通過しないと次に行けないから協力しながら進むんですね。そういうことを積み重ねていくから、何か強固な絆が生まれる。

あとはやっぱり、好きなことをやっている人たちが集まるから、そこら中にハッピーオーラが漂っていて。もう楽しいことしか考えられないみたいな(笑)。

__週末に山へ行ってパワーチャージしてるんだね。

久保:山へ行くのは大体、金曜日の夜に出発して、日曜日の夜に帰ってきます。平日は仕事を頑張って、週末に仕事を持ち越さないようにしているから、生活にすごくメリハリができました。

山スキーの天国、新潟県の焼山北面台地を滑走


__これからの働き方や生き方は、どんな風に考えているの?

久保:この数年の間に登山ガイドと森林セラピストの資格を取ったんです。コロナ禍が明けたら、資格を活かした仕事もちょっとずつしていきたい。ゆくゆくは、編集の仕事を半分、山の仕事を半分くらいにできたらいいなぁって思っています。どちらの仕事も、私に刺激を与えてくれる大事なものなんです。

__人の話を聞くのが好きだった久保さんが、人に伝えていく人になっていくのか。

久保:そこはもっと慣れていかないといけないですね。人を安全に山にお連れするのは得意だけど、説明するのが本当に苦手なんで(笑)。でも、山って本当に面白いんですよ。山の木や植物のことも勉強していますが、いくら教えてもらっても覚えきれない。だから、本当はもっと山の近くに住んで、毎日山に行くような暮らしをしたいんです。

山道具は準備がラクなように収納。道具が増え過ぎて、真岡市内の別の部屋に引っ越したばかり


#生きると働くが重なるところ

仕事は淡々とこなし、プライベートとの線引きをきっちりしている人だと思っていたけれど、生き方と働き方が重なるように、模索しながら動いてきたことを今回初めて知りました。拠点を真岡に移し、東京ではもしかしたら気圧され気味だった彼女の身体感度に、さらに磨きがかかってきたような気がします。人に伝えることが苦手だと言っていたけれど、山が好きで、山が面白くて仕方がないというその気持ちは、図らずも全身からにじみ出ているし、それだけでもう、大事なことの半分くらいは伝わっているんじゃないかな。

文・丸山一十三
株式会社ジャパンライフデザインシステムズ・プロデューサー。健康情報誌『セルフドクター』編集長。日本一の長寿県である長野県に暮らす人々をインタビューし、これからの時代の生き方、暮らし方を提案するコンセプトブック『長野インタビュー 生活芸術家たち』(Life Design Books)を編集・執筆。