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[論文メモ] 太陽コンパスと時差問題

Alerstam, T. et al.
Migration Along Orthodromic Sun Compass Routes by Arctic Birds
Science 291:300-303 (2001)
https://science.sciencemag.org/content/291/5502/300.abstract


太陽コンパスナビゲーション:
太陽の方位を参照して向かうべき方位に関する手がかりを得る方法。ただし太陽の方位は時刻とともに変化するため時刻補正が必要。野生動物は体内時計に基づいてそれを行なっていると考えられている(time-compensated sun compass)。

知り合いの方と、太陽コンパスを使ってるとしたら時差はどうしてるんだろう...?という話になり、関連がありそうだったので改めて読んでみた(内容をよく覚えていなかった)。


この論文の背景
極域では経度や地磁気環境が短距離で大きく変化する。何を手がかりにナビゲーションをするかによって辿る経路が明確に異なるため、このことを利用して渡り鳥のナビゲーションメカニズムを検証することができる。

この研究では北極域から渡りをするshorebird(涉禽類?)が地理的方位、地磁気コンパス、太陽コンパスのうち何を使っている可能性が高いかを検証した。


検証方法
[1] レーダー追跡によって渡り中のshorebirdの飛行方位を記録
  調査船で66°W〜140°Wの計11箇所で実施
[2] 飛行方位を外挿して以下の3ケースについて渡り経路シミュレーション
 ・時差補正をせずに太陽コンパスを使ったと仮定
 ・磁北に対して一定の角度を保ったと仮定
 ・真北に対して一定の角度を保ったと仮定
[3] シミュレーション経路と実際の渡りの照合
  過去に報告されている渡り中継地(北米の東海岸)に到着できるのはどのケースのシミュレーション経路かを見る


主な結果
体内時計の時差補正をしていない太陽コンパスを想定してシミュレーション推定した経路は渡り中継地への最短経路(great sircle route)に近かった。

一方、他の2パターン(地磁気ベクトルに対する方位 or 地理的方位を一定に保った場合と想定)の経路は目的地の方角からは大きく逸れて、現実的ではなかった。


おもしろいと思ったところ
・シンプルなメカニズムで極域からのエクストリームな渡りを達成し得ることを示した点。
・shorebirdはノンストップ飛行で渡りをすることが知られている。その場合、体内時計を各地のローカルタイムにリセットする時間はないだろうから、そのような補正を仮定しないメカニズムは理に適っている(このことには論文内でも触れられていた)。


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