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[論文メモ] チンパンジーの経路選択


Green et al. (in press)
Chimpanzees Use Least-Cost Routes to Out-of-Sight Goals
Current Biology [オリジナル論文へのリンク]

ラボのセミナーで紹介した論文。


問い

・チンパンジーはエネルギーコストが最小になる経路を選択するか
・見えない範囲のエネルギーランドスケープも記憶しているか


検証方法

1.  チンパンジー14頭の移動経路を目視追跡
・アフリカ ルワンダの国立公園内
・ハンディーGPSで5mおきに位置記録
・14ヶ月(約10日間/月、と書いてある)

2.  トレッドミル実験で得られた歩行のエネルギーコスト情報(過去の文献から引用)と地理情報を組み合わせて、チンパンジーの行動圏内のエネルギーランドスケープを推定。観光者用の歩道を使うことがあるため、歩道かそれ以外かで重みづけもしている。
→ 移動経路ごとにエネルギーコストを算出可能

エネルギーランドスケープ(energy landscape):
あるエリアを通過する移動コストを物理環境(地形、植生、風、など)から推定し、2次元あるいは3次元空間にマッピングしたもの。移動コストマップ。


3.  記録された移動経路と3つのモデルから生成された経路で
・エネルギーコスト
・経路の直線度
を比較

3つのモデルは、
A. 始点から終点までの移動エネルギーコストの合計値が最小となる経路
B. 始点と終点を直線で繋いだ経路
C. ローカルな情報に基づいてエネルギーコストが最小になる方向に進むことを繰り返す経路


主な結果

・チンパンジーの移動経路について推定されたエネルギーコストは、モデルAにもっとも近く、相関も強かった。モデルB、Cの値とは有意な相関はなかった。

・(2例しか示されていないけど)歩道を使っている部分も含めて、実際の移動経路とモデルAの移動経路は似ていた。

・モデルCでシミュレーション生成された経路の半分以上は、終点に辿りつかなかった。

→  チンパンジーはエネルギーコスト最小となる経路を選択していた。チンパンジーの移動経路はモデルCではなくモデルAと近かったことから、見えない範囲のエネルギーランドスケープ記憶に基づいて経路選択をしている可能性が示唆された。と考察している。


好きなところ

・環境が移動経路を作る、環境が空間認知能力を形成する、という考え方。


疑問

・実際の移動経路 vs モデルAの経路のエネルギーコストの回帰直線の傾きが1から外れているのはなぜだろう。

・「記憶に基づいて」の部分はモデルCとの比較結果が鍵になっていると思うけど、モデルCの仮定は現実的だろうか。

・モデルを作る部分で一部循環論っぽくなっているように感じたけど、テスト用と検証用の経路データを分けているから問題ない?(理解しきれていない)


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