[論文メモ] シャコの帰巣行動

Patel & Cronin (2020)
Path integration error and adaptable search behaviors in a mantis shrimp
Journal of Experimental Biology
https://jeb.biologists.org/content/223/14/jeb224618

path integrationで生じたナビゲーションエラーのリカバリー行動について調べた研究。

同じ著者によるこちらの論文↓を先に読むべきだったかも、と思った。こっちはたぶんナビゲーションメカニズムに関する研究。

Patel & Cronin (2020)
Mantis Shrimp Navigate Home Using Celestial and Idiothetic Path Integration
Current Biology, 30 (11), 1981-1987
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0960982220303614


対象種

Neogonodactylus oerstedii
和名も英名もわからなかった。シャコ類らしいということしか。


背景と問い

・シャコ類は海底に巣穴を作り、餌を取っては巣穴に戻る(=帰巣行動)。

・Neogonodactylus oerstediiは、path integrationによってナビゲーションすることが報告されている。

path integration:
ナビゲーションメカニズムのひとつ。出発点からの移動の距離と方角を積算することにより、現在地と出発点との位置関係をアップデートしていく。しかし、移動ステップごとにエラーが蓄積していくと考えられている。

・path integrationによって知覚されている巣の位置と実際の巣の位置にはずれがあり(=ナビゲーションエラー)、「巣があるはず」の場所に巣がないと、探索行動が始まる。

→  1) path integrationのエラーは距離知覚 or 方位知覚どちらの誤差に由来するのか、2) 帰巣の最終段階の巣探し行動の特徴、を調べた


検証方法

・直径1.5mのアリーナに砂と海水を張り、巣穴と餌場を設置

→ そこにシャコを入れて帰巣行動をビデオ撮影。displacement操作もしている。


主な結果

・出発してから巣に戻り始めるまでの移動経路が長いほど、ナビゲーションエラーが大きくなった。ただし線形増加ではなかった。
※ 距離知覚誤差だけがエラーの源なら、線形増加になると考えられる

・探索経路のループが徐々に大きくなった。このループの大きさの変化のしかたが理論的に予測される最適探索パターンと一致した(※ この部分よくわかってない)。

・ナビゲーションエラーが大きいときほど探索ループが大きくなった。
→ シャコ自身のpath integrationへの信頼度が探索行動に表れている?

※ Supplementary Movie(巣があるはずの場所へ向かう経路、からの探索経路)


おもしろかったこと 気になったこと など

・Fig. 1B、餌場から巣へ向かう経路が(エラーがあるとはいえ)本当にまっすぐで感動した

・しかし、最後の巣探しフェイズでこれだけうろうろしていたら帰巣効率悪すぎないだろうか...

・巣探し中、探索が始まった点にはループごとに割と正確に戻ってきているように見える。エラーの蓄積具合は、ナビゲーションへの集中度みたいなもので変わってくるんだろうか?(往路では餌探しもしているはず=集中しきれていない?)

・餌は何を手掛かりに探しているんだろう(研究ありそう)。この実験ではカタツムリの殻にエビの身を詰めたものを餌として使ったらしい。

・前にメモしたオオコウモリの論文([その1] [その2])でもpath integration関連の解析があったのだけど(→ path integrationの可能性は低い、認知地図の可能性が高い、という結論)、その根拠について深く理解できていないのでもうちょい勉強したい。

・こういう内面を窺える行動を鳥でも見つけられたらおもしろい。


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