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[論文メモ] ハヤブサの渡りの過去・現在・未来

Gu et al. 
Climate-driven flyway changes and memory-based long-distance migration
Nature 591, pages259–264 (2021)

※ 毎度のことながら理解しきれていない or 読み間違いなどをしている可能性が大いにあるので、以下のメモの内容を鵜呑みにはしないでください...


研究対象

ハヤブサ(Peregrine Falcon)Falco peregrinus
北極圏で繁殖する6つの個体群

目的

気候ドリブンの渡り行動の変化と、その行動変化におけるゲノム応答の役割を明らかにすること

アプローチ

移動経路追跡、population & functional ゲノミクス、モデリングを駆使。

分析項目↓

・渡り経路のfidelity(個体レベル, 個体群レベル)
  移動経路トラッキング、渡りパターンクラスタリング

・渡り経路の形成過程(過去)
  個体群構造解析、個体群動態解析、生態ニッチモデル

・渡り経路の維持メカニズム(現在)
  行動パターンと遺伝的距離の相関解析

・渡り距離の違いに関連する遺伝子
  ゲノム比較、脳細胞での発現解析

・温暖化の渡り行動への影響(未来)
  生態ニッチモデル、シミュレーション

主な結果

各種データから示されたこと↓

・個体群間での渡り経路の分化
- 個体レベルでも個体群レベルでも渡り経路にfidelityが見られた

- 渡り中に経験する環境特性の境界と渡り経路の境界が一致している箇所がある 
→ 環境が渡り経路を制限している?

- 渡りパターンの主成分分析の結果、渡り距離が長い個体群4つと短い個体群2つに分けられた(avg. 3680 km vs. 6134 km) 
→ そのうちの4つの個体群について個体群構造を調べると、遺伝的にも分化していることがわかった

・氷床変動、ハヤブサの個体群動態、渡りパターン、の連動
- 最終氷期極大期頃に渡り距離の長い組と短い組に分岐
- 最終氷期極大期に渡り距離がもっとも短く、個体群サイズは最大だった
と推定された

→ 氷床分布が渡りパターンを形成してきたのではないか

・渡り行動、特に渡り距離の遺伝的基盤
- 個体群間の渡り経路の距離と遺伝的な距離に正の相関(自然選択を受けた座位のみを使った場合)

- 強い自然選択を受けたと推定された座位の中に長期記憶に関与する遺伝子ADCY8が含まれていた
→ 渡り距離が長い組の塩基配列では、短い組の塩基配列に比べてADCY8の発現量が増えた(ニワトリ海馬の培養細胞で実験)

・温暖化が渡りと個体群動態に及ぼす影響
- 二酸化炭素排出量が今後増えていくと仮定して(RCP 8.5シナリオ)50年後の分布域と個体群サイズを推定すると、特に渡り距離の短い個体群で個体数の減少が顕著

移動トラッキング、ゲノミクス、モデリングという包括的なアプローチが有効かつ重要であることを示した(渡り行動の時空間的な変化の”跡”がゲノムに残っている)

主観的な感想&疑問

・とにかく盛りだくさんで圧倒された...。私はどの部分についても素人すぎて評価する能力がないのだけど、それぞれの手法の専門家がそれぞれのパートの結果を見るとどういう感想を持つのか気になった。

・過去、今、未来、をカバーしているのすごい。私は特に「予測」という視点が欠けがち。

・この論文では長距離渡り組の方が記憶力が優れているはず、という前提で議論されている(検証はしていないと思う)。一方で、留鳥より渡り鳥、短距離渡り鳥より長距離渡り鳥、で脳サイズが小さい傾向があるという報告がいくつかの論文で出ている。ハヤブサの個体群間では脳サイズに違いはあるんだろうか。
→ もし長距離渡り組の方が脳サイズが小さいとしたら&本当に記憶力が高いとしたら、塩基配列と遺伝子の発現パターンの変化で脳サイズに依存せず認知機能を高めた例ということにもなって、さらにおもしろい気がする。

・渡り距離が長い組の方が記憶力が必要だとしたら、具体的には何を覚えているんだろう。

・渡りルートの境界と環境の境界を照合する話が興味深かった。最近よく考えている「輪郭」話のヒントにもなりそうで。こういう解析をしている論文が他にも結構あるのかな。


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