【博士論文】モバイルデバイス操作時の手指運動を利用した手根管症候群スクリーニングシステム
はじめに
こんにちは、杉浦裕太研究室 渡辺です。私はこの9月に博士課程を修了して、現在は研究室の特任研究員として研究に従事しています。このnoteでは私が博士課程(3年間)で取り組んだ研究を紹介して、学部生(とりわけ学部3年生)の博士課程に対するイメージを明確にできればうれしいです。
研究内容
私は「モバイルデバイス操作時の手指運動を利用した手根管症候群スクリーニングシステム」という研究テーマに取り組みました。手根管症候群とは手を障害する最も一般的な疾患で、この疾患を罹患すると手の感覚障害や母指球筋萎縮(親指の付け根にある筋肉の萎縮)を発症して患者の生活の質を脅かします。そのため手根管症候群の早期発見が求められますが、既存の検査方法には根管症候群を客観的に評価できるとともに、人々がアクセスしやすいスクリーニングシステムはありませんでした。そこで私は手根管症候群を簡便かつ客観的にスクリーニングする手法をタブレットデバイスを用いて開発しました。現在、タブレットデバイスに代表されるモバイルデバイスは我々の生活に浸透しており、多種多様な疾患のスクリーニングへの活用が期待されています。そして将来、モバイルデバイスを何気なく使用するだけで人々は無意識のうちに疾患を発見できる未来が到来するかもしれません。私はこのような未来を見越してタブレットデバイスを用いた手根管症候群スクリーニングを2つ開発しました。
1つめは母指対立運動を利用したタブレットデバイス向けのゲームによる手根管症候群スクリーニングです[1]。この手法は、手根管症候群は母指対立運動(親指を他の指に近づけようとする運動)を障害することに注目して、被験者がタブレットデバイス上で行う母指対立運動の軌跡を解析することでスクリーニングを実現します。実験の結果、疾患群は健常群と比較して母指対立運動が劣っていることを示唆しました。さらに分類性能が感度93%、特異度73%を達成し、この手法の有用性を示唆しました。感度とは疾患を有している人を検査で陽性と判定できた割合、特異度とは疾患を有していない人を検査で陰性と判定できた割合をいいます。
2つめは運筆動作を利用した手根管症候群スクリーニングです[2]。この手法は、手根管症候群は書字を含む巧緻運動を障害することに注目して、スタイラスを用いてタブレットデバイス画面に螺旋を描くことでスクリーニングを検討しました。実験の結果、疾患群は健常群と比較して筆圧および描画の正確性が低下することを示唆しました。さらに分類性能が感度61-82%、特異度65-84%を達成し、この手法の有用性を示唆しました。
私は博士課程で2つの手根管症候群スクリーニングを提案しましたが、今後はより生活動作の延長での疾患推定を目指して、例えばスマートフォンのフリック操作時の母指対立運動を解析したり、タブレットデバイスにクレジットカードの署名をするときの書字動作を解析して手根管症候群を発見できるようにしたいと考えています。
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